新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )について (16)
2020月07月29日 配信
1.世界の感染状況
*統計データは、WHO Situation Reportを使用。(グラフを作成)
- COVID-19の流行の地域的変化としては、中国から発生し、周辺のアジアに拡大したが、感染爆発は見られなかった。しかしながら、ヨーロッパ、米国、イランで流行を起こし、これらは、ヨーロッパ(ロシアも含む)及び米国での感染爆発を引き起こした。
- 特に米国での感染爆発は、収まる傾向を見せずに、アメリカ大陸に拡大、最も深刻な状況であるブラジルを含め、メキシコ、ペルー、チリでも感染爆発を起こし、その他の南米地域にも拡大している。
- アジアにおける流行は、一時、タイ、シンガポール、マレーシアで小さな流行を起こしたものの、その後の感染拡大は見られていない。フィリピン、インドネシアでは、流行が継続し、7月に入って、日本での拡大が懸念されている。
- アジアにおいては、インドにおいても感染爆発が起きており、今後、さらに拡大傾向であり、隣国のバングラデシュ、パキスタンでの流行も継続している。
- 東南アジアでは、全体的に陽性者数は減少しているが、フィリピン、インドネシアが増加傾向を示している。
- 中近東においては、最初に流行が始まったイランにおいても継続して感染者が報告されている。その他の中東国であるサウジアラビア、バーレーン、クウェート等での流行が継続している。
- アフリカでは、6月までは、爆発的感染がおこっていなかったが、南アフリカにおける感染爆発が始まった。
▶累積新規陽性者数 上位15か国の変移:
▶アジアの国々:
2.日本、東京都国内感染状況
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東京も含む全国の都会(札幌、仙台、大阪、京都、福岡市等)での増加が明らかであり、4月の第1波に続く、第2波の感染拡大といえる。当初は、20-30代の若者の層が増加していたが、高年齢層にも広がっており、都会では、市中感染が起きていると考えられる。
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空港検疫における新規陽性者数の増加傾向が持続している。
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全体の陽性者の致死率は、低下傾向である。
▶日本全体:
(厚生労働省:国内の発生状況)空港検疫における陽性者数も含まれる。
▶東京都:
(東京都 新型コロナウイルス陽性患者発表詳細より作成)
▶空港検疫:
3.世界における抗体検査から、推察できること。
世界的に、また、日本国内でも新型コロナ感染症流行は収まる気配も見せずに、継続していると考えられる。この新型コロナ感染を封じ込めるためには、効果的なワクチンの開発と、ワクチンの接種が必要になるが、なかなか、困難な状況である。世界各国で、感染の把握のために「抗体検査」が行われている。抗原検査の一つであるPCR検査が現時点での感染を確認するのに使われるのに対し、抗体検査は、これまでに新型コロナウイルスに感染したかどうかを確認する検査である。それぞれに地域において、70%以上の人々が感染予防に必要な抗体を保有していれば、「集団免疫」が獲得されていると考えられ、流行はしないとされているため、抗体検査は重要である。
■日本を含む各国での抗体検査の結果が出ており、下記の通りである。
【世界の抗体検査】
- オーストリアのスキーリゾートであるイシュグルでは、3月に大規模な集団感染が発生した。インスブルック医科大学ウイルス学研究所が、2020年4月21日から27日にかけて抗体検査を実施し、住民の79%に相当する1,473人の被験者(大人1,259人、子供214人、479世帯)が参加した。その結果、42.4%(18歳未満の子供では27%)において抗体陽性であることが判明した。これは、以前のPCR検査で陽性と判定された人の数の約6倍(子供では10倍)であった。(インスブルック医科大学のプレス発表)
- ニューヨーク州では4月20日に3000人を対象とした抗体検査を開始したが、23日、クオモ知事が暫定的な結果を公表した。それによると州全体では13.9%の陽性率であった。地域によりばらつきが大きく、ニューヨーク市では21%、その周辺地域でも10%以上であったが、州の他の地域では4%以下であった。
https://www.mashupreporter.com/poorest-neighborhoods-antibody-survey-coronavirus/
- イタリア、ベルガモ県 (人口110万)はロンバルディア州の中でも感染が蔓延した地域で、確定患者数でも10,948人、ほぼ1%となる (4/28の公衆衛生局発表)。ベルガモ県の二つの町 (Alzano, Nembro)で、感染者との接触があって自宅待機中の人・疑わしい症状があって自宅療養中の人を対象に抗体検査を実施した。自宅待機・療養中の人なのでリスクは必然高くなるが、750人のうち61%が陽性であった。
https://note.com/atarui/n/n49d4051c7e1b
- イ南方医科大学南方病院は、湖北省、四川省、重慶市、広東省などの計1万7368人の血清に含まれる、新型コロナウイルス特異抗体「IgG」「IgM」の陽性率を調べた。調査期間は今年3月9日から4月10日まで。分析結果によると、武漢市の血清抗体陽性率は3.8%で、圧倒的多数の抗体陽性者に臨床症状が見られなかった。武漢市から遠い地域ほど累積感染率が低い。感染症の流行中に病院を訪問した人(外来や血液透析患者など)、もしくは院内の職員の累積血清陽性率は2.5%で、一般コミュニティ住民の0.8%を大きく上回った。
https://www.mashupreporter.com/poorest-neighborhoods-antibody-survey-coronavirus/
- スウェーデン公衆衛生局は22日までに、首都ストックホルムの住民を対象に行った検
査で、抗体保有率は7.3%にとどまるとの結果が出たと明らかにした。緩やかな感染封じ込め策を取るスウェーデンだが、「集団免疫」の獲得には程遠い状況が浮き彫りになった。3%の数値は他国とほぼ同水準で、集団免疫の形成に必要な70~90%をはるかに下回る。スウェーデンは他国と異なる感染防止戦略を採用しており、日常生活の制限はごく軽微な水準にとどまっていた。
https://www.cnn.co.jp/world/35154212.html
【日本の抗体検査】
- 厚生労働省は、調査への参加に同意を得た計7950人に対する抗体検査の結果、東京都では1971人中2人(0.10%)、大阪府では2970人中5人(0.17%)、宮城県では3009人中1人(0.03%)が陽性と判定された。いずれも各自治体の累積感染者数の割合と比べると高い値となっているが、現時点でも大半の人が抗体を保有していないことが明らかになった。
- ソフトバンクグループは5月12日~6月8日にかけて、同グループや取引先関連の計465社の社員3万8216人と、全国の医療機関539施設の医療従事者5850人に対して、簡易検査キットによる抗体定性検査を実施した。ソフトバンク・取引先ではOrient Gene社、医療機関ではINNOVITA社の簡易検査キットを使用した。計4万4066人を対象とした検査の結果、全体の0.43%に当たる191人が抗体検査陽性と判定された。このうち105人が医療従事者で、今回検査した4万4000人の中の医療従事者5850人のうち、1.79%だった。ソフトバンク・取引先の3万8216人については、陽性者は86人(0.23%)だった。
【考察】
- 集団感染が起きている地域については、50-60%の住民の抗体が陽性となっており、3密のリスクがあるところでの感染率が高いことがわかる。
- スウェーデンが取った政策(新型コロナに対しての特別な対策は取らずに、新型コロナに多くの人が感染し、集団免疫の獲得を目指す)は、抗体陽性率が対策をとったヨーロッパの地域とも変わらないこと、死亡率も比較して高いことから、現時点では、成功しているとは言えない。
- 日本においては、東京都も含め、抗体値が低く(新型コロナウイルスに接すると容易に感染する)、今後も3密による、感染の拡大が予想される。
- 中国からの報告では、感染時に抗体値が一度上がって、さがり、陰性になるということも言われており、抗体値の減少による再発の可能性も否定できない。
- WHOの7月15日時点のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチン候補は23種類。このほかに140種類が前臨床の段階にあり、日本でも、4種類のワクチンの臨床治験が開始されているものの、現在のところ、大規模な患者さんに対しての最終段階の治験が終わっていないため、現在のところ、いつ、ワクチンができるかは不明である。
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新型コロナ感染への恐怖を持ちながらの生活から、感染の心配がなく正常生活に戻るためには、「有効なワクチンができ、これらの接種をするか」、「多くの人々(70%以上)が感染し、集団免疫を獲得する」ことが必要であるが、現時点でのその道はまだ遠く、3密を避けて、感染予防を務める必要がある。また、感染の疑いもある場合には早期検査、早期自己隔離を実践する必要がある。多くの例では重症化しないので、過剰な心配はする必要はない。
2020.07.29
文責:仲佐 保
NGOシェア共同代表・医師
■「新型コロナウイルス(COVID-19)影響下におけるシェアの活動」
※新型コロナウイルス(COVID-19)影響下におけるシェアの活動ページへ移動します。