後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome)。HIVと呼ばれるウイルスに感染することにより、体を病気から守る抵抗力が低下し、さまざまな症状の感染症をおこす。症状は感染した病原体によって異なるが、HIV感染による免疫低下で生じたこうした病状を総称してエイズと呼ぶ。
ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)。エイズを起こす病原体であり、レトロウイルスと呼ばれるタイプのウイルスの一つである。同じレトロウイルスの仲間には成人T細胞性白血病を起こすHTLVウイルスもある。どちらも血液や生殖液を介して感染し、多年かけて白血球を破壊することで免疫力を低下させる。
人間が自然に備え持っている免疫力(病原体に対する抵抗力)ではあまり増殖することができないような弱い病原体も、人間の免疫力が下がるとその機会をとらえて激しく活動するようになる。こうして生じた感染症を日和見感染症と呼ぶ。
人体に侵入した病原体を排除する働きをしているのが血液中の白血球。そのなかで司令塔的な役割をしているのがCD4陽性細胞。HIVはこのCD4陽性細胞に取りつくことで人間の免疫力を弱めてしまう。HIVの活動性が進むにつれてこのCD4陽性細胞数が低下し、200以下になると高率にエイズの症状を発病するようになることがわかっている。
日和見感染症の代表的なもの、カビの仲間であるニューモシスティスという病原体が免疫力が下がった人の肺内で増殖し、咳・発熱・呼吸困難を伴う肺炎を起こす。日本でエイズを発症する人が経験する日和見感染症ではもっとも頻度が多い。重症化する前に発見すれば比較的安い薬剤で治癒することができる。以前はカリニ肺炎という呼称がつかわれていた。
エイズ・マラリアと並んで世界でもっとも大勢の人が影響を受けている感染症であり免疫が著しく低下していない人でも感染・発病することがある。しかし、HIVによって免疫が低下した人では発病するリスクがさらに高くなり開発途上国では最も多い日和見感染症である。咳・痰・微熱が主な症状であるため発見が遅れやすく、半年以上薬を飲む必要があるため治療を完了できない人も多い。流行を抑えるためには国際社会の協力が必要である。
水ぼうそうを起こすウイルスである水痘ウイルスは水ぼうそうが治った後も神経の中に潜んでいることがある。通常の免疫力では、このウイルスの活動は抑え込まれているが、がんや糖尿病・過労などで免疫力が低下した人では活動性が回復し、神経の走行に沿った範囲で水疱や痛みを伴う発疹を起こす。通常、1〜2週間で治癒するがAIDSを発症し免疫力が著しく低下している人では重症化し死にいたることも少なくない。
エイズウイルスの増殖を止める効果のある薬剤であり1990年頃から相次いで開発された。特に1996年に開発された3種類の薬を併用して強力にウイルスを抑え込む治療法は、HAARTと呼ばれ効果的なエイズ治療の標準治療として普及するようになった。しかし、薬剤価格が高い、副作用が多い、中途半端な飲み方をするとすぐに効かなくなるといった欠点があり開発途上国での普及は大きく遅れた。
開発した製薬会社が販売している薬をブランド薬。それ以外の会社が作成している薬を後発薬またはジェネリック薬と呼ぶことが多い。多くの場合、特許の期限が切れた後に別のメーカーが製造しているものであるが、1996年以前は特許の国際条約がなかったため開発途上国では国内だけで使用する目的でジェネリック薬の製造が可能であった。
エイズは医療だけの問題ではなく社会の様々な課題と関連するものであるため、国連は関連する諸機関を集めて合同のエイズ対策の組織を作った。世界保健機構(WHO),国連開発計画(UNDP)などの機関が参加している。
HIVに感染した人々。当事者の関わりがエイズへの差別と偏見の解消にポジティブな効果を生み出すことから,HIV検査の結果が陽性だった人々をHIV感染者という呼称ではなく、HIV陽性者と呼ぶことがエイズ対策に関わる人々の間では増えている。
HIVに感染した人々の国際的連絡組織。効果的なエイズ対策には差別と偏見の除去が不可欠でありHIV陽性となった人々の意見が政策に反映させることが重要である。この観点から国際エイズ会議はGNP+を始めとする多様な当事者組織の参加によって行われるようになっている。
男性と性行為をする男性(Men who have sex with men)は、社会の中で少数者であることから偏見と差別にさらされることが少なくない。しかし、HIV予防のためにはMSM自身が同じコミュニティの中で自分たちの性の特性に合った啓発活動を行うことが効果的である。UNAIDSはMSMへのプログラムがMSM自身の参加によってつくられることを推奨している。
エイズに影響を受けやすい人々の置かれている立場を正しく理解し、その人権を守りつつより現実的な対策を行うことが必要であるという立場からUNAIDSでは以下のようなVulnerable Communityの参加を重視している。HIV陽性者・性的指向性の少数者・性産業労働者(SW= Sex worker)・薬物使用者(Drug User, IDU= Injecting Drug User)・移住労働者などである。性的指向性の少数者には、GLBTすなわち男性同性愛者Gay,女性同性愛者Lesbian、両性愛者bisexual、性転換者transgenderが含まれる。
エイズ対策の国際会議は世界規模で行われる世界エイズ会議と各地域ごとに行われる地域会議がそれぞれ2年ごとに交互におこなわれている。日本はアジア太平洋地域に属しておりICAAPに参加しており2005年には神戸で第7回アジア太平洋地域エイズ国際会議が行われた。
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