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現在日本に在住する外国人の数は200万人を超え更に年々増加を続けている。経済がグローバル化する中で人の移動が活発になったことの当然の結果である。日本で働く外国人は一時的な出稼ぎという目で見られることが多いが、出生率の低下の中で貴重な労働力として日本の経済を支える人材であり、今後日本の社会に移民として円滑に定住できるようにすることが既存の日本社会の構成員にとっても重要となってきている。日本で生活する外国人は、いざ病気になった時様々な壁にぶつかる可能性がある。こうした問題を自己責任に帰するのではなく、日本の社会が解決できるよう体制を整えることが必要である。
海外で生まれて日本語を母語として育っていない外国人にとって日本で医療を受ける最大の障壁は言葉の壁である。日本では病院が医療通訳を配置していることは極めてまれであり、医療従事者も英語以外の言語に対応できることは非常に少ない。しかし在日外国人の母語としてニーズが高い言語は、中国語・韓国朝鮮語・ポルトガル語・スペイン語といった言語である。
こうした言語への対応は日系ブラジル人が多い一部の地域の病院などを除いてはほとんど行われていない。北米・北西欧州・豪州などに比して日本の医療通訳体制の整備は遅れているが、神奈川県・京都市など地方自治体の中にも医療通訳の育成と派遣を行う取り組みが始まって来た。言葉がわからなければ受診が遅れたり診断が円滑につかずに高額の医療費を要する事態となることもある。また、せっかく診断がついても説明が十分伝わらず有効な治療に結びつかないことも予測される。通訳体制の整備は外国人医療の向上のために必要な重要な課題である。
日本は国民皆保険制度となっており、健康保険に加入していれば自己負担は3割であり、月あたり約7万円を超えた高額医療費は後から給付され理屈の上では医療費を理由に医療が受けられないことは起きにくくなっている。しかし、1990年代から、国民健康保険加入の条件に1年以上の在留資格をあげる施策が行われて以来、短期滞在者・超過滞在者は国民健康保険への加入が事実上できなくなった。超過滞在外国人の数は現在半減しているが、商用や家族滞在などの数は増えており常時数10万人の健康保険を持たない外国人が日本に在住している。
1990年以降急速に増加した日系人は人材派遣会社に所属し工場等に派遣されていることが多い。しかし、少なからぬ人材派遣会社が社会保険への加入を行っておらず、多くの日系人労働者が1年以上の在留資格を持ちながら無保険になっていた。現在は、派遣会社にたいして健康保険への加入を促す指導が行われている。
実感染症予防法では、隔離を要する1類・2類の感染症については隔離が必要な期間の公費での医療を定めている。また、結核については外来治療についても患者負担を軽減する制度を設けている。生活基盤の安定していない外国人は、結核・HIVといった感染症の影響を受けやすく、これらの制度を円滑に活用して医療へのアクセスを確保することが重要である。
開発途上国出身の外国人を雇用する工場や建設業者が急増し、健康保険に加入できない外国人の数が急増したのが1990年代初頭である。このころ医療費の未払いに対する懸念から診療拒否事件が頻発し、社会問題となった。生命に危険がある病人を医療費が支払える確証がないというだけの理由で治療しないことは、医師法に反する行為である。そこで東京・神奈川・群馬などの主として関東地方の自治体が外国人救急医療費の未払いを補てんする事業を開始し、医療機関の損失を埋めることで混乱を防止する対策を行っている。しかし、自治体によって予算額が大きく異なっており、実質的に制度が機能している自治体は極めて少数である。近年の病院経営の悪化を背景に診療拒否が増加している兆候があり、国レベルの対策が必要だとの指摘もある。
文責:シェア副代表理事 沢田貴志
機関誌「Bon Partage」No.141(2008年10月)掲載
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