災害医療
大都市や防災対策の進んでいない地域で発生した場合、規模の割に人的被害が多くなる。今回は,災害医療についてのキーワードについて解説する。
1923年の関東大震災(M7.9)では約14万人が火災や建物倒壊で死亡した。2003年12月26日に起きたイラン・バム地震(M6.8)でも4万3000人が犠牲になっている。また、2004年12月26日に起きたスマトラ島沖地震(M9.0)では、巨大地震が発生し、大規模な津波がインド洋沿岸の少なくとも10カ国を襲い、2万人以上の死者と多くの負傷者がでており甚大な被害が広がっている。
災害の定義については諸説あるが、Gunn(*1)(1911)によれば、「人と環境との生態学的な関係における広範な破壊の結果、被災社会がそれと対応するのに非常な努力を要し、被災地域以外からの援助を必要とするほどの規模で生じた深刻かつ急激な出来事」となっている。
(*1)Gunn SWA:災害医学用語事典(P26) へるす出版 1992
災害は、自然災害・人為的災害・特殊災害(NBC災害)の3つに分類される。
自然災害の中の代表的なものは、ハリケーン・地震・津波・火山噴火などである。広い範囲に影響を及ぼすため広域災害と呼ばれている。人為的災害は、化学爆発や大都市火災、大型交通災害(船舶・航空機・列車)などである。多くは局所で起こるため局地災害と呼ばれている。自然災害と人為的災害を組み合わせたものを複合災害と呼ぶ。特殊災害(NBC災害)は、核・放射性物質(Nuclear)、生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)による災害(テロを含む)は、特殊災害の代表的なものである。日本の地下鉄サリン事件、米国の同時多発テロ後に発生した炭素菌以降、NBC災害として注目を浴びるようになった。NBC災害は、通常の災害対応に加えて、ゾーニング(*2)・除染・防護を行わなければならない。
都市型災害と地方型災害にも分類される。世界的にみると都市型災害は発展国(Developed Country)に多く、地方型災害は、発展途上国(Developing Country)に多い。
(*2)汚染の拡大防止等、消防や警察は、対策本部の情報と風向き高低等、周囲の状況を合理的に判断し場所を区分けすること
医療救護を必要とする災害は、突然に発生し発生直後の衝撃的な状況の中で救出活動が行われる。疫学的に考察すると、発災、急性期、亜急性期、慢性期、静穏期、復旧・復興期、発災と一定のパターンを示している。これを災害サイクルといい、それらのパターンを理解することで、効率的な災害対策が可能となる。
災害医療と救急医療では、医療のあり方が異なる。救急医療は、設備の整った医療機関に搬送された患者に対して十分なスタッフで高度な医療が行われますが、災害医療では、多数の傷病者に対して、スタッフが十分でなく、医療資器材も限られてくる。発災直後の混乱した現場では、より多くの傷病者に対して最善の処置が尽くせるようにするための7つのポイントを紹介する。
CSCATTTといい、指揮・命令(Command/control)、安全(Safety)、情報伝達(Communication)、評価(Assessment)、トリアージ(Triage)(*3)、治療(Treatment)、搬送(Transport)の7つになる。特に、また、災害医療には、災害サイクルの変化する中で、災害直後の救急医療活動をはじめ、公衆衛生活動が重要になってくる。災害医療の最終目標は、「助かる命を助けること」である。
(*3)トリアージ(Triage):負傷者の治療・搬送の優先順位づけ
ASD(Acute Stress Disorder:急性ストレス障害)は、災害直後に発生し、短くても2日間、長くても4週間持続する。4週間以上続く場合は、診断名が変更されPTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心理的外傷後ストレス障害)診断基準(DSM-IV)が満たされていれば医師によりPTSDと診断される。ASDの期間が回復への期間であり、こころのケアが重要になる。PTSDの主な症状は、フラッシュバック、回避症状、生理的・身体的過敏興奮状態などがあげられる。
「災害弱者」・「優先要支援者」と言われる。C(Children:子ども)、W(Women:妊産婦)、A(Aged:高齢者)、P(Patients or Poor:患者or貧困者)、その他、障害者や外国人等がこれにあたる。災害から直接受ける影響が大きく、その後の災害から直接的に受ける衝撃が大きく、その後の生活状況から二次的な被害を受けて健康障害を起こしやすい。
最近CWAPと言う言葉は、人々に広く注目されるようになってきている。また、被災現場で我慢強く働く人々(特に男性)や被災地外から救援活動に参加する人々も「二次的被災者」となりやすいことを忘れてはならない。相棒を作り、援助を行っていくこと、互いに体験や感情を話すことが大切である。また、自分自身の限界を知り、ペースを守り、自分を褒めることも大切である。
スフィアは、1997年に人道援助を行うNGOグループと国際赤十字、赤新月社運動によって開始された。
主に5つの主要なセクター(給水と衛生、栄養、食料援助、シェルター、保険サービス)のそれぞれについて災害援助の際に達成すべき最低基準を定めた。また、セクターを超えた7つの問題(子ども、高齢者、障害者、ジェンダー、保護、HIV/AIDS、環境)も考慮されスフィアプロジェクトが作成されている。
文責:日本赤十字武蔵野短期大学 看護師 弘中陽子
機関誌「Bon Partage」No.121(2005年1月)掲載
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。
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