国際保健とは-International Health からGlobal Health
世界には様々な格差があり、保健医療問題はその中でも直接その影響を受ける。収入が少ないために病気になった時に治療が受けられず、健康が悪化する。健康を損ねると仕事をできないために収入も得られなくなり、さらに健康を害するという悪循環がおこっている。そのような地域では、環境も悪く、道路などの移動のためのインフラも整っていない。安価もしくは無料で医療を受けられるはずなのにもかかわらずそこに到達できない。開発途上国だけではなく、先進国でも様々な保健問題に対して疾病対策が取られているが、ヒト、モノ、カネというすべての資源が少ない開発途上国での保健医療問題を総合的に解決していくことが国際保健と考えられる。
国際保健医療学とは「国や地域での健康の水準や、保健医療サービスの状況を示す指標として何が適切であるかを明らかにするとともに、国や地域間に見られる健康の水準や保健医療サービスにおける格差を明らかにし、そのような格差を生じた原因を解明し、格差を縮小する手段を研究開発する学問。」であるが、これらのことを実際に行うためには、医療という視点だけではなく、経済学、社会学、文化人類学、歴史学などの様々な分野との共同作業が必要である。
また、国際保健は、これまではInternational Healthと訳されてきたが、近年のように交通手段が発達すると、エイズや鳥インフルエンザのように病気が瞬く間に世界に広がる。国際化するこれらの病気に対しては、対策が一つの国や二国間では間に合わない状況となり、国際間という意味合いが強いInternationalからGlobal Health(グローバルヘルス)と言う言葉が使われるようになってきている。
何が課題か、何が問題なのか
世界の主な死因は、その上位を心臓病、ガン、脳いっ血といった生活習慣病が占めているが、未だに開発途上国では毎年、下痢症330万人、エイズ320万、肺炎310万人、マラリア200万人、結核100万人、はしかで75万人という感染症で死亡している。また、妊娠に関連して50万人が死亡している。この予防可能な、もしくは治療法もわかっている疾患による死亡者は、世界全体の死亡者の半分以上を占めており、これらの95%が開発途上国で起こっているといわれている。
西暦2000年に全ての国連加盟国(191か国)の合意のもとに現在取り組むべき緊急の課題として、ミレニアム開発目標という国際目標が設定された。2015年までに達成すべき目標であるが、この8つの目標の中に(1)目標4:乳幼児死亡率の削減、(2)目標5:妊産婦死亡率の削減、(3)目標6:HIV/AIDS、TB、マラリア蔓延防止という保健関係の目標が3つ含まれており、世界が今これに取り組んでいる。しかしながら、現実的には、これらの目標を到達できるのは、途上国の2割程度と考えられており、サブサハラアフリカ、南アジアにおける達成は不可能と言われている。
国際保健でできること
さて、ヒト、モノ、カネが十分でない開発途上国に対して、何ができるのかということも大きな課題である。単なる医療や看護などの技術的なことを教えても、それに必要な環境が整っていないことには、使えない。マラリアの診断の仕方、治療の仕方を知っていても、そこに薬がなければ、何もできないのである。さらに、そこにたどり着けない人々に対してどうしたらよいのであろうか。そういった意味で、国際保健は医療専門家が単なる技術移転によってこれらを達成できるわけではない。保健医療取り巻くあらゆる環境に目を向け、これらを総合的に解決する必要がある。またそれらの医療を必要な住民に届けられるような手段、方法を見つけ、そのシステムを作っていくことが大きな課題である。また、これらのシステムも保健医療専門家だけでは不可能である、また外からの人間が作れるわけではない。良い価値観をもち、その国、地域のことを最もよく知っているその国の人が主体になることが大切である、彼らと共に知恵を出し合い、本当に良い仕組みをつくっていくことが正しい。
文責:国立国際医療センター 仲佐保
機関誌「Bon Partage」No.138(2008年1月)掲載