野宿者の健康問題(新宿連絡会医療班の路上健康相談)
新宿連絡会は1994以前から活動を行っており、野宿者同士の自主的な互助組織をサポートする形で、通年活動としてパトロール・救急対応、越年期活動として簡易シェルターを設置し衰弱者の介護を行ってきた。この活動に医療関係者が次第にボランティアとして参加するようになり、新宿連絡会医療班が1996年3月に発足した。1998年1月までは、ダンボール村のあった新宿西口ロータリー横の地下通路において、連絡会の炊き出しと同時に机を出して、医療者による健康相談を毎月1回第2日曜日に行い血圧測定・市販薬提供を行った。1998年2月ダンボール村の火災事故により医療相談は一時中断したが、野宿者が移住した新宿中央公園で連絡会の定期炊き出しが開始された1998年4月から医療班も活動を再開した。その後現在まで毎月第2日曜日の医療相談活動を継続している。その後、現在まで毎月第2日曜日の医療相談活動を継続している。越年期には集中支援活動として医療テントを設置して24時間の相談・介護体制を組んでいる。
1996年4月から2006年3月までの10年間に、定期医療相談と越年期医療相談で医師が相談記録を作成した受診者は、延べ3840人であり、複数回受診した人を除いた受診者実数は3142人であった。延べ受診者の内2886人が定期医療相談を、954人が越年期医療相談を受診した。受診者の平均年齢は53.2歳、最も若い受診者は20歳、最も高齢の受診者は84歳、女性の割合は3.5%であった。また医療相談受診者の内1095人が医療機関を受診し、そのうち152人が入院治療を行った。
2000年度から受診者の増加に対応するため、すべての受診者の相談を医師が行い記録を残す従来の方式から、血圧計測のみの相談者は別記録とし、症状が軽度で風邪薬や湿布・軟膏類で対応できる受診者には看護師が口頭で問診を行い市販薬を提供し、重症者を医師が相談するシステムに変更した。血圧計測のみは平均40人程、薬の提供のみは70から110人程である。そのため1999年度に比べ2000年以降は総受診者数が90人程、受診者実数が30人程減少した。しかし医療機関を受診した人数の減少は見られず、重症例に集中して医師の相談を行う方式に変更した効果が見られた。
地域生活移行支援事業開始後、2004年12月以降の医療相談受診者数が減少傾向にある。新宿区では2004年9月から2005年2月の間に421人が野宿生活からアパートに移行した。2003年度の相談者数及び医療機関受診者数はそれぞれ474人と117人であるが、2005年度には252人と82人に減少している。
受診者の年齢層は45歳から64歳の層が73%を占める。1996年から2005年まで受診者の平均年齢は53歳前後でほぼ一定している。医療機関受診時の疾患は、高血圧・胃潰瘍・腰痛・結核・湿疹・打撲・糖尿病など、循環器・運動器・消化器・皮膚・呼吸器疾患の順に多かった。また既往歴は、胃潰瘍、高血圧、結核、骨折、糖尿病、脳血管障害など、消化器、循環器、呼吸器、運動器、肝胆道系疾患が多かった。
野宿者の平均死亡年齢が50歳代であり、結核罹患率も一般人口の100倍に達すると考えられる。野宿者の健康状態は、最貧途上国と同じレベルであると言える。野宿者の死亡原因は大阪市監察医事務所死体検案・解剖結果によると、心筋梗塞などの心疾患、肝炎・肝硬変、肺炎、結核、脳血管障害、胃潰瘍などの疾患と、凍死、栄養失調・餓死が主なものである。新宿連絡会・医療班健康相談における既往歴と死体検案による死亡原因疾患はほぼ一致する。
野宿者の健康を改善するために最も必要なものは、医療ではなく衣食住の環境を整えることである。生活保護を中心とした社会保障と就労支援による生活の自立が最も重要な課題である。野宿者の健康にとって医療相談活動は、路上死に至らないようにするための最終的な支援であると考える。
文責:新宿連絡会医療班 大脇甲哉
機関誌「Bon Partage」No.130(2006年7月)掲載