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微量栄養素

定義(definition)

一般に、栄養素は多量栄養素と微量栄養素の2つに分類できます。タンパク質、脂肪、炭水化物は多量栄養素といい、微量栄養素とは、微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素であるビタミン、ミネラルを意味します。

ビタミン(vitamins)

ビタミンは水溶性と脂溶性に分類されます。脂溶性は、ビタミンA、D、E、Kの4種類のみで、油脂類と同時摂取することで体内吸収率を高めることができます。過剰に摂取すると体内に蓄積され、頭痛、吐き気など身体に変調をきたすことがあります。一方、水溶性ビタミンは(ビタミンB1、B2、B6、B12、パントテン酸、葉酸、ナイアシン、ビオチン、ビタミンCの9種類)、大量に摂取した場合でも不要分は体外に排出され、過剰摂取による副作用はほとんどありません。また、水溶性ビタミンの特徴として、長時間の水洗いでビタミンが流出してしまうことや、加熱によって破壊されてしまうため、調理方に注意する必要があります。ビタミンは、タンパク質、糖質、脂質がエネルギーに変換される際の代謝サイクルに必要不可欠な栄養素であると共に、それぞれのビタミンが異なる身体機能維持に作用して体を健康な状態に保ちます。そのため、十分に摂取できない状況が続くと、欠乏症と呼ばれる健康障害を引き起こすことになるのです。代表的なものは、ビタミンA欠乏症である夜盲症、D欠乏症のくる病(幼児のみ)、B1欠乏症の反射神経異常(「かっけ」として知られています)などです。

ミネラル(minerals)

ミネラルは、生体を構成する主要な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素の総称で、無機質ともいいます。ビタミンは元素から作られる有機化合物ですが、ミネラルは元素そのものです。人間の身体に必要とされるミネラルは16種類とされ、これらを必須ミネラルと呼びます。ビタミン同様に、体の機能維持や調整に重要な役割を担っているミネラルは、1日あたりの必要量によって多量ミネラル(macro-minerals)7種類と微量ミネラル(trace-minerals)9種類に分けられています。多量ミネラルに分類されるのは、カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、マグネシウムで、これらは骨や歯の形成のほか、神経細胞や筋肉細胞に電気的な興奮を伝える事で情報伝達や筋肉運動を行う機能に深く関与しているため、電解質ミネラルとも呼ばれています。微量ミネラルは、鉄、亜鉛、銅、マンガン、クロム、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルトをさします。コラーゲンの合成・炭水化物の代謝、体内の酸素の運搬などに関係しているミネラルです。ミネラルの欠乏症として知られる代表的なものは、鉄、銅の欠乏による貧血、カルシウムの欠乏によるくる病(幼児のみ)や骨軟化症、ヨウ素の欠乏による甲状腺腫やクレチン病などです。ミネラルは摂取量が不足している時のみならず、過剰摂取によっても様々な過剰症や中毒を起こすものがあります。

微量栄養素の摂取基準量(Dietary Reference Intakes)

世界保健機構(World Health Organization: WHO)と国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization: FAO)では、年齢、性別ごとの成長に必要、且つ健康を維持するための微量栄養素の必要摂取量を定めると共に、過剰摂取による健康障害を予防するための許容上限摂取量も設定しています。先進国の多くは栄養所要量基準値をそれぞれ独自に設定しており、米国とカナダが共同で策定した推奨所要量(Recommended Dietary Allowances: RDA)は途上国でも広く適用されています。1990年代後半になって、米国/カナダは栄養摂取基準値(Dietary Reference Intakes: DRI)を使用するようになりました。適正摂取量(Adequate Intakes: AI)、許容上限摂取量(Tolerable Upper Intake Levels: UL)などが合わせて統一されており、栄養素の不足と過剰摂取の両問題に対応できると評価されています。日本でも同様の方向性で、栄養所要量に加えて上限摂取量の策定がされています。同一の方向性を持つ米国と日本の栄養所要量ですが、その基準値には差があり、「これを下回ると健康に問題を生じる可能性のある量(日本)」と「健康維持に必要な量(米国)」との考え方の違いが伺えます。

三大微量栄養素欠乏(3 major micronutrient deficiencies)

鉄、ビタミンA、ヨウ素の欠乏は、世界の三大微量栄養素欠乏として知られており、その中でも鉄欠乏が最も多く、WHOは鉄欠乏性貧血症の総数は20億人以上と推定しています。1990年の子どものための世界サミット、さらには1992年の国際栄養会議において、途上国では特に子どもや女性にこれらの微量栄養素欠乏症が蔓延していることが指摘され、2000年までの改善目標が提示されましたが、目標達成には至らず、取り組みはいまだ続けられています。

国際機関の取り組み(efforts of international organizations)

HO、 国連児童基金(UNICEF)などの国際機関は各国政府やNGOと共に、微量栄養素欠乏問題に対して、国際ビタミンA対策グループ(International Vitamin A Consultative Group: IVACG)、ヨード欠乏症国際対策機構(International council for Control of Iodine Deficiency disorders: ICCIDD)、国際栄養性貧血対策グループ(International Nutritional Anemia Consultative Group: INACG)などの検討組織を設立し、微量栄養素欠乏の根絶に努力しています。微量栄養素欠乏症対策の主な戦略は、微量栄養素の栄養補給(Supplementation)、飲・食物への微量栄養素の添加(Fortification)、食物ベースのアプローチ/食事内容の改善(Food-based approach/Dietary modification)の3つです。国や地域の情況に合わせて、これらの戦略統合を行う、公衆衛生、教育、リプロダクティブ・ヘルス、地域開発等のプロジェクトと組み合わせるなど、多様な取組みが展開されています。食物ベースのアプローチ/食事内容の改善には、農業政策による生産促進、栄養教育、コミュニケーション、ソーシャルマーケティング、行動変容プログラムなどを通した摂取量増加、世帯レベルでの食物の調理・加工・保存法改善、そして、食物の品種改良による農業的アプローチなどがあります。これらは、住民自身が生産・消費活動に主体的に取り組むことを通して、食物の入手可能性やその多様性を確保し、自分達の食事の質に最終的な責任を持つようになるプロセスがエンパワーメントにつながるため、長期的な目標達成に適した、持続性のあるアプローチであるといわれています。

文責:シェア栄養アドバイザー 水元芳
機関誌「Bon Partage」No.147(2010年4月)掲載

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