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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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在日外国人の健康(3)

在日外国人の健康
日本に在留する外国人は200万人を超えたが、その多くは若い働き盛りの人々である。日本の経済を支える彼らの健康を守れるかどうか日本の地域社会の在り方が問われている。事例を交え、課題と取り組みについて解説する。
 
増加を続ける外国人への診療拒否

外国人人口が急増した1990年代、外国人への医療も幾つかの改善が見られた。しかし、この数年間病院経営の悪化が進む中で外国人医療をめぐる環境はむしろ悪化しているように見受けられる。昨年シェアが毎日新聞の取材を受けた際に、医療費の支払いが理由で治療が受けられず生命の危険にさらされた外国人の事例をまとめてみた。この結果、私たちが把握しただけで2006年には5件、2007年には7件の医療費を理由とした診療忌避が認められ、経済的な理由で治療が受けられず死亡したと考えられる外国人が3人いた。現実にはこの数倍の診療忌避が生じていると予測される。医師法は「正当な事由なく診療を拒んではならない」と定めており、医療費の支払いが不確かであるというだけで治療を提供しないのは医師法違反に問われる問題である。生命に危険が及んでいる状態であればなおさらである。

 

海外からの問題提起

2008年7月タイのエイズ患者らで作るTNP+(タイHIV陽性者ネットワーク)が日本政府と長野・茨城県両県知事あてに要望書を提出した。日本でエイズを発病した2人のタイ人が脳の合併症で意識障害や麻痺を生じながら経済的な理由やビザが切れていることで緊急医療をなかなか受けられず死亡したり障害を残したりしたためである。報道によれば、この事件を受けて長野県は医療通訳の制度化を行うとのことである。まずは長野県の英断を評価するべきであろう。しかし、こうした事態が繰り返される背景には、赤字を増やす患者を受け入れたくないという意識が医療経営者の間に広がり、有形無形の形で医師にその圧力が加わっているからである。通訳制度を導入しても、医療機関が健康保険のない外国人を避けようとする現実が変わらなければ制度は使われないだろう。

 

自治体の対策
こうした中で、東京都・神奈川県では深刻な診療忌避が少ない。この背景には行旅病人法・未払い補填事業という2つの制度に必要な予算が割り当てられていることがある。これらの制度は、外国人の病人に必要な治療を提供した医療機関に対して、一定の条件下でその損失の一部を自治体が補てんするものである。これによって医療機関の診療忌避が減っており、早期の治療開始が促進するため重症患者が減少する。現実に、神奈川県では平成18年度の予算が年間2000万円であったのに対して利用が1380万円にすぎず、外国人未払い医療費に減少傾向すらみえる。特筆すべきことは、この両県が外国人人口当たりのエイズ発症数が関東甲信地域で最も少なく、結核発生も減少傾向がみられることである。
 
検診や言葉の支援
こうした改善と両自治体が外国人のための検診、通訳制度、未払い医療費の補填といった積極的な政策を展開していることとは無関係ではないだろう。早期発見や受診の機会を提供し、診療拒否が起きにくいsafety-net(安全網・安全策)を作ることは医療経済上も効果的なのだ。一方こうした制度がない自治体では、医療費が回収できないことや言葉のトラブルを恐れる病院が診療を婉曲に拒みがちである。この結果、治療を受けられないままに病状を悪化させていく外国人の例が目立つ。母国に帰るためには航空機を使わざるを得ない以上、病状を一定回復させなければ帰国はできない。結局どこかの病院が最後に引き受けて、より時間と費用をかけて治療をすることになる。その病院の多くが公立病院であるならばこれは税金の大きな無駄遣いである。
 
国際社会の信頼を得るために

過去10年で健康は人権であるという意識が開発途上国にも広がってきている。こうした中で医療費が払えそうもないからと治療が遅れ、死亡したり障害を負う病人が続けば国際的な非難を浴びるだろう。そもそも、健康保険のない外国人には3カ月ビザの商人、日本人に嫁いだ娘の子育て支援に来た母親、大使館で雇用される運転手など多様な人が含まれている。こうした人々の急病への備えも必要である。東京・神奈川の実践に習い外国人のための健診・通訳制度・未払い補填制度のなど効率的で人道的な医療体制の整備が急務である。

 

 文責:シェア副代表理事 沢田貴志

機関誌「Bon Partage」No.142(2009年1月)掲載

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