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外国人人口が急増した1990年代、外国人への医療も幾つかの改善が見られた。しかし、この数年間病院経営の悪化が進む中で外国人医療をめぐる環境はむしろ悪化しているように見受けられる。昨年シェアが毎日新聞の取材を受けた際に、医療費の支払いが理由で治療が受けられず生命の危険にさらされた外国人の事例をまとめてみた。この結果、私たちが把握しただけで2006年には5件、2007年には7件の医療費を理由とした診療忌避が認められ、経済的な理由で治療が受けられず死亡したと考えられる外国人が3人いた。現実にはこの数倍の診療忌避が生じていると予測される。医師法は「正当な事由なく診療を拒んではならない」と定めており、医療費の支払いが不確かであるというだけで治療を提供しないのは医師法違反に問われる問題である。生命に危険が及んでいる状態であればなおさらである。
2008年7月タイのエイズ患者らで作るTNP+(タイHIV陽性者ネットワーク)が日本政府と長野・茨城県両県知事あてに要望書を提出した。日本でエイズを発病した2人のタイ人が脳の合併症で意識障害や麻痺を生じながら経済的な理由やビザが切れていることで緊急医療をなかなか受けられず死亡したり障害を残したりしたためである。報道によれば、この事件を受けて長野県は医療通訳の制度化を行うとのことである。まずは長野県の英断を評価するべきであろう。しかし、こうした事態が繰り返される背景には、赤字を増やす患者を受け入れたくないという意識が医療経営者の間に広がり、有形無形の形で医師にその圧力が加わっているからである。通訳制度を導入しても、医療機関が健康保険のない外国人を避けようとする現実が変わらなければ制度は使われないだろう。
過去10年で健康は人権であるという意識が開発途上国にも広がってきている。こうした中で医療費が払えそうもないからと治療が遅れ、死亡したり障害を負う病人が続けば国際的な非難を浴びるだろう。そもそも、健康保険のない外国人には3カ月ビザの商人、日本人に嫁いだ娘の子育て支援に来た母親、大使館で雇用される運転手など多様な人が含まれている。こうした人々の急病への備えも必要である。東京・神奈川の実践に習い外国人のための健診・通訳制度・未払い補填制度のなど効率的で人道的な医療体制の整備が急務である。
文責:シェア副代表理事 沢田貴志
機関誌「Bon Partage」No.142(2009年1月)掲載
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