TBA
WHOではTBA(伝統的産婆)を「地域で出産を手助けする女性のこと、自分の出産を通してあるいは見習いを通して技術を身につける人(a person who assists the mother during child birth and who initially acquired her skills by delivering babies herself or through apprenticeship to other TBAs)」と定義している。
TBAは一般的に女性であり、40歳以上のその地域に住む(地域から選ばれた)母親である。西洋的な教育を受けた助産師とは違い、彼女たちは観察を通して、経験を通して出産に関する技術を身につけていく。WHOの推定によると全世界では6割から8割の出産はTBAによるものと言われている。
国によってTBAの地位や理解が違ってはいるが、WHOはTBAを分娩の介助や管理ができる「熟練介助者」には含めていない。
日本で産婆についての記録が出てくるのは室町時代である。
「トリアゲババ」、「ヒキアゲババ」などと呼ばれて、子どもをこの世に取り上げたり引き上げることによって人間の世界に仲間入りさせる意味があったと言われている。また、産湯を使うという意味の「アライババ」や臍帯を切り'運'を与えるという意味で「フスアジ(臍婆)」と呼ばれるところもあった。
産婆は赤ちゃんを取り上げる仕事と、祈りをする仕事のふたつがあった。お産はあの世からこの世へ魂が移行してくるときであり、昔はお産で命を落とす赤ちゃんや母親が多かったのでこれをもののけが命を奪いにくると考えもののけに命を囚われないようにお祈りをしたと言われている。
1978年にプライマリ・ヘルス・ケアに関する国際会議が旧ソ連邦カザフ共和国の首都アルマ・アタで開催され、世界の全ての人々の健康を守り促進するのに緊急な行動の必要を表明した。
その中でTBAはコミュニテイーの中で重要な存在と位置づけられ、プライマリ・ヘルス・ケアを提供するリソースであり、そのためにはトレーニングが必要であると考えられた。1970〜1980年代にかけてMMR(maternal mortality rate:妊産婦死亡率)を減少させることを目的にANC(antenatal care:妊産婦検診)や出産時・後の管理についてのトレーニングが行われた。
しかし、TBAトレーニングによるMMRの減少は見られなかった。
このことから低い識字率や科学的知識に乏しいTBAへのトレーニングへの効果が疑問視されるようになり、正常な出産の介助・診断技術・合併症の管理や移送の知識と技術を併せ持つSBA (skilled birth attendant:熟練介助者)による出産介助が必要であると認識され、TBAの技術は無視されるようになった。
発展途上国と言われる地域、特に田舎では専門的なサービス利用が可能であっても多くの女性がTBAからのケアを受けている。
それにはコストが安いこと、便利であること、習慣や文化など様々な理由がある。また、医療機関へのアクセスが難しい地域もまだまだ多く、それらの地域ではやはりTBAが活躍している。
TBAトレーニングについての調査結果を見てみると知識、態度、習慣、女性へのアドバイスが向上しているというデータもある。また、トレーニングにより、感染の減少、出産後出血の減少も見られている。
TBAに関しての意見はさまざまである。カンボジアで経験したTBAトレーニングでは、技術や知識の向上だけを重視したのではなく、横(TBA同士の連携)と縦(TBA:ヘルスセンター:病院の連携)のつながりを構築していくことに重点を置いた。TBAはその地域の住民をよく知っており、一目置かれる存在である。TBAとヘルススタッフとの間で良いコミュニケーションが築かれることにより、予防接種時の手伝い、妊婦健診への協力、合併症のリファーが少しずつ増加した。TBAを大切なひとつのリソースとしてどのように生かしていけるかが地域の保健状況を向上していく鍵であるように感じている。
参考文献
1 日本人の子産み・子育てーいま/むかし、鎌田久子他
2 Effective of shifting policies on Traditional Birth Attendant Training, Sue Kruske, Lesley Baraclay, P306-311, Vol49, No.4, Journal of Midwife & Womenユs Health
3 WHO. Traditional birth attendants-A Joint WHO/UNFPA/MCH statement, Geneva: WHO, 1992
4 What can a meta-analysis tell us about traditional birth attendant training and pregnancy outcomes? Lynn Sibley, Theresa Ann Spite, P51-60, Midwifery(2004) 20 他
文責:佐藤真理
機関誌「Bon Partage」No.127(2006年1月)掲載
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。
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