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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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vol.12オーストラリア

旅する世界の保健室

公共サービスの公平なアクセスのための通訳整備

多民族政策を掲げる国家
オーストラリア(以下、豪州)の人口は約2230万人であり、その27%(約600万人)は200カ国以上の外国で生まれた移住者です。国として、人々の多様な文化・宗教・言語的背景を尊重する多民族政策を掲げています。
「移住者と保健医療」に関連する豪州の政策文書や研究論文等では、〝People from Culturally and Linguistically Diverse (CALD) backgrounds(文化・言語的に多様な背景をもつ人々)〟 という表現がよく使用されています。外国で出生した移住者だけに限らず、豪州で出生した人や豪州国籍取得者でも英語以外の言語を家庭で話す人等も広く含まれます。よって、人々の世代的な影響を理解し、多様な文化や言語背景をもつ人々を社会的に包括し、尊重する表現といえます。
豪州には「多民族国家として行政や公共サービスは、人々が公平にアクセスできるよう整備すべき」という政策、〝Access and Equity Policy〟があり、これを実現するための一手段として国家無料通訳サービスが整備されています。これは翻訳・通訳サービス(TIS: translating and interpreting service)と呼ばれ、国家認定機関1による認定を受けた通訳者により、170以上の言語に24時間体制で対応しています。公共サービスの公平なアクセス促進を目的としているため、利用を許可された民間の医療機関やNPOを含めた幅広いサービスの利用時に、無料で利用可能です。例えば、私自身、確定申告について税務署の電話相談を利用したところ、普段聞き慣れない税に係る複雑な用語が次々と出て困ったため、TISサービスを利用しました。通訳者を介して税務署のオペレーターと三者通話の方法で相談ができ、大変助かりました。

医療通訳
TISには 〝Doctors Priority Line(医師優先の電話サービス)〟 があり、英会話の不自由な患者を診療する医師への無料医療通訳サービスとして、160以上の言語をサポートしています。このサービスは、電話により3分以内に通訳手配ができることが特徴です。
州レベルでは、例えばニューサウスウェールズ州が提供する無料医療通訳サービスがあります。これは公立の医療機関であれば、認定医療通訳を対面もしくは電話・ビデオカンファレンスの方法で利用できるサービスです。同州の保健局は、公的保健医療機関の医療従事者を対象にした医療通訳利用の指針を出しています。同指針によると、「英語が流暢でない人及びろう者」と会話する際に医療通訳の利用を義務づけており、「こうした患者から医療通訳なしに得た承諾書は法的に無効になり得る」としています。

おわりに
このような豪州の先進的取り組みを参考にしながら、日本でも通訳整備が期待されます。特に人命に係わる保健医療サービスにおいては、「公平なアクセス」や「医療の安全」、「患者が理解可能な言語手段によるインフォームドコンセント」の観点から、医療通訳が果たす役割は大きいでしょう。

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写真:シドニーにあるACON(ニューサウスウェールズ州エイズ協議会)に貼られていた医療通訳のポスター。このように州保健局からの資金援助を受けたNGOによるヘルスサービスの利用時等でも、州の通訳サービスが利用されている。

1:National Accreditation Authority for Translators and Interpreters(NAATI)と呼ばれる。連邦政府が所有し、豪州の翻訳及び通訳産業を対象にした国家基準を策定する機関。


元シェアスタッフ(在日外国人支援事業担当) 李祥任
機関誌「Bon Partage」No.155(2014年4月)掲載

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