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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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vol.8東ティモール

旅する世界の保健室


東ティモールの医療事情 - 8年の成果と今後10年の期待

thphoto.jpg今年1月、マラリアとデング熱にかかりディリ国立病院に入院しました。日本でも、医療従事者が患者の立場になり初めて気づくことは多いと思いますが、私はそれを東ティモールで体験することができましたので、ご紹介します。
写真:東ティモールの子どもたち

入院病棟が満床のため、入院したのは救急救命室。男女、小児・成人混合の30のベッドで細長い部屋に並んでいます。各ベッドにカーテンが付いていますが、完全には閉まらないので着替えもろくにできません。患者用トイレは男女混合で一つ。悪臭が漂い、洋式なのに便座がないので中腰で用をたさなければなりません。また、点滴台には車輪がなく、病院のトイレなのに石鹸がありません。高熱に襲われ衰弱している体で、トイレに行く度に石鹸と重い点滴台を持ちあげて運び、毎回悪臭で吐き気を催し、もちろんナースコールはないのでこのままトイレで倒れたらどうしようと何度も不安になりました。

また、病院には付添人も一緒に入院するため、面会人も含め毎晩にぎやかなドラマが繰り広げられます。泣き声、どなり声、うめき声、事故で運ばれてくる人、亡くなる人、一つの部屋の中でありとあらゆることが起こります。私の入院中だけでも数名の方が亡くなりました。医療設備の不十分さ、普段数字だけではピンとこない罹患率や死亡率の高さを痛感しました。

さらに、設備だけではなくサービスの質にも苦しみました。点滴の針が刺さっているため、一人で上着を羽織ることもできず、看護師に助けを求めましたがはっきり断られました。私はまだいい方で、看護師が患者を怒鳴りつけることは日常茶飯事です。看護師たちの対応は私が看護学校で学んだ看護像からはかけ離れています。 点滴の針を乱暴に抜くので二度も見舞いに来てくれていた同僚に血液が飛び散りました。基本的な看護技術の欠如、看護の質の低さ、また、それらを改善するためのスーパーバイズ+評価システムの欠如を目の当たりにしました。途上国ではよくあることですが、医療従事者不足の中で、看護師たちは日本の看護師以上に処方や縫合などの医療処置を求められ、ときには医者の役割をも果たさなければなりません。患者のプライバシーの配慮、コミュニケーションスキルなどは二の次になるわけです。

辛い入院体験でしたが、この国の保健医療事情についてじっくりと考えることができました。独立後8年、東ティモールは確実に前進しています。ようやく治安の安定を取り戻し、国の努力と様々な国の支援により、騒乱で破壊された基本的な病院、保健センターは修復されました。医療従事者・保健ボランティア養成、村レベルの統合的地域保健サービスも開始され、独立後様々な取り組みと経験により、東ティモール人の能力は確実に向上し、ティモール人主導の現場になりました。しかし一方では、何とか保健医療の土台はできてきたものの、医療の質の達成度は低く、向上されるべき点は数多く残されています。

私の病院の評価とは裏腹に、東ティモール人たちにとっての国立病院とは、これが国内で一番医療水準の高い病院であり、全国から集まる患者たちにとっては、ここは病気からの解放の希望であり、最後の砦なのでしょう。村で素朴な暮らしをしている人々にとっては、医者/看護師がいて、水が出るトイレがあり、電気があり、ベッドがあり、ご飯が配給され、医療サービスが受けられる環境は、この上ない救いの場所なのではないでしょうか。

しかし、全ての東ティモール人が平和で健康な生活を送れることを目標とするならば、この現状に決して満足するべきではありません。復興された医療施設がただの箱にならないように、むしろ箱からサービスが溢れだすようになってほしいものです。そのために、医療設備、必須医薬品の充実、サービスの向上のための医療従事者の能力向上、最低限の医療サービスを国の末端まで届けるための努力は引き続き行われるべきであり、それらは、今後10年の課題と目標でしょう。


シェア会員、Health Alliance International保健プログラムコンサルタント 成田清恵
機関誌「Bon Partage」No.149(2010年11月)掲載

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