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【追悼】デビッド・サンダース/ Memorial for David Sanders: 本田、沢田、宇井、李

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デビッド・サンダースさんを悼む

本田 徹
 温顔でいつも笑顔を絶やさない人、というのが、1990年代後半にデビッド・サンダースさんと初めてお会いして以来変わらない印象でした。懐旧談になってしまいますが、確か1997年に二人のデビッド(もう一人もシェアにとって恩人と言えるデビッド・ワーナーさん)が共同で書き下ろした、"Questioning the Solution : Politics of Primary Health Care and Child Survival" を翻訳しようという話が持ち上がりました。(邦訳は、「いのち・開発・NGO」新評論・刊)

 当時、池住義憲さんと若井晋さんの二人が編集責任者となり、何人かの翻訳チームが立ち上がった時、シェアからは沢田さんと私が声をかけられ、ありがたくも光栄な役割を担わせていただきました。私は2章を分担しましたが、一つの章は、西部メキシコでワーナーさんが村人たちと始めたプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の活動「ピアスラ」(本では、スペイン語の発音表記を間違えて「ピアクストラ」としてしまいました)について、もう一つは、ジンバブエにおける小児の栄養プログラムに関するもので、こちらはサンダースさんが書きました。二人のPHC先達によるPHCの現場での、果敢で独創的な取り組みを詳しく知る良い機会となりました。

 その後時を置いて、2016年頃からタイ保健省が主催する Prince Mahidol Award Conference (PMAC)の仕事で、サンダースさんが来日されるたびにお会いする機会があり、シェアとの意見交換の場なども与えていただき、彼の深い学識と謙虚なお人柄に触れ、ますます敬愛の念を深くしました。彼はシェアに、世界的な民衆の保健運動 'People's Health Movement'(PHM)への参加を強く促してくれ、そのご縁で、韓国やフィリピンの保健関係者ともつながりが出来ました。

 今回デビッド・ワーナーさんの長文の追悼文書を読んで、サンダースさんが表面的な明るさ、温和さからはうかがい知しれないほどの、苦難と失意と挑戦の連続の中で、諦めず、精一杯に、ほんとうのPHC(つまりヘルス・フォア・オール)の実現のため奮闘されてきたことを知り、目頭が熱くなる思いでした。  後に続く私たちにとって、いつまでも先を照らし、光り続ける存在なのだと痛感しています。心からの弔意をデビッド・サンダースさんに捧げます。  (2019.9.13)

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(写真左:デビッド・サンダースさんと日本の居酒屋で/写真右:シェア事務所でスタッフ達とデビッド・サンダースさん)


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David Sandersさん 追悼文:comrade David Sanders

沢田 貴志
 この3年間David Sandersさんは、毎年春先に国際会議の準備で来日し、そのたびに私たちと時間を作ってくれました。幸運にも彼の定宿のそばに住んでいる私は毎年送り迎えを担当することになり、彼と話をする時間に恵まれたのです。

 彼のこれまでの業績の詳細は他の追悼文に譲りますが、あるときは医師として、ある時は公衆衛生の教授、ある時はNGOのadvocatorとして活動してきたDavid Sandersさん。その活動は、終始一貫しており、経済利益を住民福祉よりも優先する考え方や格差を容認する政策を許さず、巨大企業の保健行政への介入を舌鋒鋭く批判していました。その主張は、公衆衛生専門家としての深い洞察に基づくものであり、地域の住民の状況を包括的に把握して政策提言する彼の姿勢は多くの公衆衛生の専門家達のロールモデルとなっていました。
そんな彼が日本に来るたびに私たちと連絡を取り彼の運動への参加を呼び掛けていたのは、彼にそうさせるだけの強い動機があったはずです。戦後の民主化の中で平等な医療を実現し健康指標を世界トップに押し上げた日本の戦後社会が今大きく変質し、格差と不平等が広がっていることに対して彼は大きな危機感をもっていたのではないでしょうか。

 女性への労働現場の差別が温存され、子どもの貧困が広がり、外国人の労働力に依存しながら移民を認めない政策が進んでしまう日本。やまゆり園事件への対応など人を生産性で測ってしまいがちな政治と社会の状況。そんな、日本社会の行く末を案じて私達に声をかけ、外の世界とつないでくれようとしていたのでしょう。この数年の彼との交流のおかげで私たちも格差と健康の問題に取り組む韓国や他のアジアの関係者のネットワークとのつながりを作ることができました。

 歩みが遅くなかなか前に進めていなかった私は、彼がどう呼ばれたいのかわかっていてもその呼称で彼を呼ぶことにためらいを感じていました。しかし予想外に早く別れが来てしまった今、彼の思いに応える私たちの気持ちを今伝えなければ・・・。「私達はあなたのことを決して忘れません。そして、その思いをアジアの仲間たちと一緒に受け継いでいきます。見守っていてください。comrade David Sanders」

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(シェア東京事務所でデビッド・サンダースさん、本田さんと沢田)


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David Sandersさん 追悼文

立教大学 宇井志緒利:SHARE理事/元AHI(アジア保健研修所)職員
『Questioning the Solution』 は、包括的プライマリ・ヘルス・ケアがどのように矮小化され、対外債務に苦しむ国々に保健医療制度改革が押し付けられたかを、鋭い構造分析で明示した二人のDavidさんの銘著です。私が関わっていたアジア保健研修所(AHI愛知県にある1980年創設のNGO)のアジア諸国の地域保健開発ワーカーを対象にした国際研修でも教材に使っていました。

 その著者の一人であるDavid SandersさんがAHIを訪問されたのは、1999年。原本の日本語版『いのち・開発・NGO』(1998年初版、新評論)が出版された翌年でした。元AHI事務局長の池住さんが監訳者の一人で、また何人かの職員が訳を分担したこともあり、大喜びで出版記念講演をしてくださいました。「2000年までにすべての人に健康を」と掲げたアルマ・アタ宣言の目標年を目前に、「私たちにはやるべきことが沢山ある」と日本の保健関係者に力強く話されました。その影響で、2000年にバングラデシュで開催された第1回世界民衆保健会議(People's Health Assembly:PHA)には日本から多数が参加したようです。

 その後、私がSandersさんと再会できたのは何と20年後、昨年2018年に再びバングラデシュで開催された第4回PHAでした。「あなたが参加してくれてうれしいよ」、日本から唯一人参加した私を覚えていてくださって、一緒に写真をとりました。2019年4月Sandersさんが会合で来日されていることを知り、満開桜の美しい夜にSHAREの沢田副代表理事や元SHARE職員の李さんと4人でお食事をしました。

その時も「今こそNGOは何をすべきか」「日本と韓国との協力連携を」など、熱く我々を激励してくださいました。来年も桜の頃に来日する可能性があるとお聞きして、すかさず「公のご用の後、数日帰国を延ばして講演をお願いできないでしょうか」「でも謝金は。。。」と失礼と承知しながらお尋ねしました。「もちろんだよ、喜んで!謝金のことは考えなくていい」と、一声快諾。来年の春またご一緒できるのを楽しみにしていました。

「次世代に引き継ぎを」と言われていたSandersさん、こんなに早く急に引継ぎされるとは思いませんでした。Sandersさんが尽力された「Health for All NOW!」(いつか、でなく、今すぐすべての人に健康を!)の実現のために、仲間を増やして努力を続ける決意を新たにされました。 Sandersさん、心からありがとう! 天国から見守ってください。

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(デビッド・サンダースさんとの食事の時、左から李さん、デビッドさん、沢田さん、宇井)


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デビッド サンダース先生について-近年のグローバルヘルスの舞台から-

李 祥任
 デビッド先生は、健康格差の是正を目指して取組み、活躍され続けたGlobal & Public Healthの専門家かつ功労者でした。生涯に渡りプライマリヘルスケアおよびGlobal health policyへ多大な貢献をされ、公衆衛生分野のイノベーションを起こしたパイオニアでした。

 私がデビッド先生に初めてお会いしたのは、2016年にタイで開かれたプリンス・マヒドン王子記念章会合(Prince Mahidol Award Conference: PMAC)でした。世界中からグローバルヘルスのリーダーや専門家達が参加する国際保健会合で、鋭い質疑・発言をする専門家・・・、それがデビッド先生でした。今年のPMACではデビッド先生は、保健セクター以外の社会、経済、政治的要因が健康や非感染性疾患に及ぼす課題と解決策を検討する"The Commercial Determinants of Non-Communicable Diseases (NCDs):非感染性疾患の商業的決定要因"というセッションのモデレーターを務めていました。洞察力に富む発言や巧みなファシリテーションにより、会場を埋め尽くす大勢の参加者を魅了していました。PMACには国際運営委員会がありますが、デビッド先生は学識者の立場に加えて、恐らく市民社会組織から唯一の代表者でもあったことは意義深いものでした。

 デビッド先生は、世界保健総会に対しても"民衆の保健運動 (People's Health Movement)を通じて画期的な取り組みをされていました。それが"Global Health Watch* "の発行です。WHOが発表する総会の報告書とは異なり、これは市民社会による報告書で、総会での協議を観察し、グローバルヘルスの関係機関のパフォーマンスをモニタリングしつつ、協議の注目事項や評論をまとめています。今では政府関係者からも参照される貴重な情報資源になっています。

健康格差、栄養、子どもの健康、プライマリヘルスケア・・・こうした重要な課題についてデビッド先生は常に健康の社会的決定要因と市民参画を重要視されてきたと考えます。他界される数日前に先生の論文、"From primary health care to universal health coverage--one step forward and two steps back"**がLancet誌で発表されました。デビッド先生の貴重な世界へのメッセージを是非、ご注目ください。

*Global Health Watch, https://www.ghwatch.org/who-watch/about
** Sanders D, Nandi S, Labont R, Vance C, Van Damme W. From primary health care to universal health coverage-one step forward and two steps back. Lancet. 2019 Aug 24;394(10199):619-621.

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(デビッド・サンダースさんとの食事の時)


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