シェアから2012年に独立したHSF(Health and SHARE Foundation)の活動について記載した本田代表のブログ(注1)などを見た方から、MSMという用語の使用方法に不適切なところがあるのではないかというご意見を頂きました。シェアではこれまでMSMに「男性を性の対象とする男性」という訳をつけていましたが、このことが誤解を生じているなど、幾つかのご指摘を頂きました。シェアで検討した結果、今後はご指摘の通りMSMについては本来の英文に即した「男性と性行為をする男性」という訳で統一し、これに付随して幾つかの見直しを行うことと致しました。
少し背景をご説明させてください。タイでは1990年代から国を挙げたエイズへの取組みが行われてきましたが、セクシャルマイノリティへの支援は後回しにされていました。こうした中で、シェアは2005年からセクシャルマイノリティを対象としたHIV陽性者支援と地域の啓発活動の取組みを始めました。この際、行政やドナー等の協力が得られるようにプロジェクトの対象者としてMSM(Men who have sex with men)という用語を使いました。ご指摘にありましたようにMSMとは男性との性交渉がある全ての男性を包含した公衆衛生用語でありその中には、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどさまざまなセクシャリティの人が含まれています。あくまでも男性と性行為があるという行為に基づいて区分をした言葉であり、セクシャリティを表現する用語ではありません。
シェアが活動するウボン県ケマラート郡では、トランスジェンダー、ゲイ、レズビアンなど様々なセクシャリティの若者が中心になりシェアと一緒にエイズの啓発を行ってきました。このうち何人かの若者はシェアの職員となりともに活動してきました。本人達も「MSMグループ」リーダーと自称し学校や病院へと活動の場を広げるようになりました。MSMという言葉がトランスジェンダーやゲイといった区別を行わずに済むことや、行政機関へのアピールなどもあって本人達はあえてこのプロジェクト名、グループ名を使い続ける選択をしたと記憶しています。しかし、活動開始当時は普及していなかったLGBTという用語も日本・タイともに次第に普及をしていましたので、今にして思えば、多様なセクシャリティ当事者の立場を尊重しLGBTという呼称を積極的に使用していく選択肢があったと思います。少なくともMSMという用語の限界について東京側でも話し合い、誤用を避ける努力をしておく必要があったのだと考えています。
MSMという用語の使用について、私がこのあたりの議論を持ち出さず、「男性を性の対象とする男性」という意訳をつけていたことも、話を複雑にしてしまったと思います。
これに付随してMSMという用語が「男性と性行為をする男性」という趣旨の公衆衛生用語であることから逸脱し、セクシャリティ表す表現であるかのような誤用がブログの一部にありました。このことは多様なセクシャリティを尊重する観点から配慮を欠いたものだったと思います。この誤用によって不快な思いをされた方々には謹んでお詫びを申し上げます。
今後シェアとしては、以下の2点を徹底して参ります。
1. MSMの訳としては、「男性と性行為をする男性」を訳の基本とする。
2. セクシャルマイノリティの活動を日本で紹介をする際に、その担い手である当事者を表す表現としては、MSMは使用せず、LGBT、ゲイ、トランスジェンダーなどの本来のセクシャリティの表現を基本とする。
シェアのタイ事務所は2012年に現地法人として独立し、HSFとなりました。独立後も活動は続き、地域の中でエイズ啓発のファシリテーターとしての役割を担い学校の先生にも期待されるようになりました。現在少人数の団体ですが、職員や中核メンバーの中に多数のLGBT当事者がいる形で活動しています。今後のプロジェクト名やグループ名にMSMという用語を使い続けるかどうかは、現場のタイ人達の主体的判断を尊重していきたいと思います。しかし、シェアとしては、東京側で活動の紹介を行うに際してMSMという用語をプロジェクト名などの固有名詞に留め、活動の紹介にあたっては「LGBTによるエイズの啓発活動」といった形でセクシャリティの呼称を極力使用していくように心がけたいと思います。また、今後誤解を生じないために職員及び関係者がセクシャリティについて学習する機会を設けたいと思います。(2017年2月13日)
注1)Dr本田のひとりごと(68): タイのプライマリ・ヘルス・ケアからの学び直しの旅 ー目からウロコのHSFによるバディ・ホームケアの試み 2016-12-2