HOME > シェアが賛同すること > 《日本政府への要請》新型コロナ克服のための取り組みを世界全体で進めるため 医薬品・医療技術の知的財産権保護を緩和し、共有化・協力の促進を
以下、「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会」から、日本政府への要請書になります。
※本要望書における「途上国・新興国」という用語の使用について、注釈を加えました。本ページ末尾、要望書の後にありますので、御関心の方はご覧いただければ幸いです。
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内閣総理大臣 菅 義偉 様
財務大臣 麻生 太郎 様
外務大臣 茂木 敏充 様
経済産業大臣 梶山 弘志 様
医薬品・医療技術の知的財産権保護を緩和し、共有化・協力の促進を
「新型コロナウイルス感染症」(COVID-19)の世界的流行は、北半球における冬の到来や、感染力の強い変異 種の登場により、深刻さを増しています。2019 年末、東アジアに始まり、欧米を席巻したCOVID-19 は、中東・ 北アフリカ、中南米、南アジア、サハラ以南アフリカなどの途上国・新興国にも拡大し、世界保健機関(WHO) によると、1月10 日の段階で8904 万人以上の感染、193 万人以上の死者をもたらしてきました。日本におい ても、再び緊急事態宣言が発出されており、抜本的な対策が必要となっています。
COVID-19 は世界各国の社会、経済、環境に多様かつ甚大な影響を及ぼしており、その対策も多岐に及びます。 世界はこの1年足らずの間に新規医薬品の研究開発、社会・経済的影響の緩和のためのIT 技術などの開発と 実用化ほか様々な既存技術の活用を行ってきました。特に新規医薬品の開発は、製薬企業への民間投資のみ ならず、各国の国立研究機関や、開発促進に取り組む国際機関を通じた公的資金の投入や、途上国を含む世 界各国での臨床試験の実施など、公的資金や、公共の利益を目的とした人々の善意の協力によって実現され ています。開発された新規医薬品への世界全体の平等なアクセスを含め、COVID-19 を克服するための手段は 世界に開かれたものであるべきです。しかし現在、平等なアクセスのための国際支援は大幅に不足しており、 富裕国がワクチンを独占する一方、途上国は取り残され、十分な普及は2021 年内には実現しない見通しです。 このパンデミックは、全世界で封じ込めない限り、収束することはできません。COVID-19 がかつてない異次 元の脅威であることをふまえ、既存の枠組みや方法を超える革新的な対応が、緊急に求められています。
こうした先進国の争奪戦の中、世界人口の半数以上を占める途上国・新興国は、医薬品・ワクチンの確保に大きな不安と課題を抱えています。先進国のように製薬企業と事前契約を結ぶ財源もないばかりか、新型コロナ以前から存在するHIV/エイズやマラリア、その他感染症の対応に医療を含む国内の様々な資源を割かなければならないからです。
2020 年10 月2日、南アフリカ共和国(南ア)とインド政府は、世界貿易機関(WTO)の「貿易関連知的財産 権協定」(TRIPs)理事会に対して、各国が医薬品、診断薬、有望なワクチン候補、その他COVID-19 対策に関 連する技術や製品の開発・製造を拡大できるようにするため、COVID-19 の収束までの期間、COVID-19 に関わ る予防・封じ込め・治療に関連する知的財産権(著作権および関連諸権利(TRIPs 協定第2 部第1 節)、意匠 (同第4 節)、特許(同第5 節)および開示されていない情報の保護(同第7 節))の免除を含む提案(以下、 「南ア・インド等提案」と表記)を行いました。南ア・インド等提案には、南部アフリカのエスワティニ王 国とモザンビーク、ケニア、パキスタン、ボリビア、モンゴル、ジンバブウェが共同提案国となり、100 か国 以上が完全支持もしくは歓迎を表明しています(2021 年1 月6 日時点)。また、世界保健機関(WHO)や国連 合同エイズ計画(UNAIDS)を始め、国際機関や国連人権専門家、保健医療、人権、貿易・投資に関わる多く の国際市民社会組織がこの提案を支持しています。しかし日本、米国、欧州連合をはじめとする先進国など が反対の立場をとり、合意が見いだせなかったため、12 月10 日のTRIPs 理事会にて、3 月11-12 日のTRIPs 理 事会に向けて審議を継続することが決まりました。
以上より、私たちは、世界の市民社会の一員として、日本政府に以下のことを要望します。
国際的には、すべての国に治療薬やワクチンを提供するための枠組みも創設されていますが、途上国に必ず行き届くことが確保されたわけではありません。一方、特許が壁となり経済的に余裕のある一部の国々だけが治療薬を独占する事態も起こりかねません。新型コロナはグローバルなパンデミックであり、一部の国々で感染が抑えられたとしても、途上国・新興国で感染が拡大し続ければ、巡り巡って私たちの日常にウイルスは蔓延し続けます。まさに、豊かな国が「ワクチン・ナショナリズム」を押し通せば、本当の意味での感染抑制はできません。
上記要望の理由は以下の通りです。
日本政府は、G7、G20 においても、ワクチン等へのグローバルなアクセスの必要性を主張し、特許プールな どの仕組みの必要性を訴えました。また、グローバルなCOVID-19 対策への貢献については、(1)新型コロナ ウイルス感染症対応能力の強化、(2)強靭かつ包摂的な保健システムの構築(将来の健康危機に備える保健 医療体制の強化)、(3)感染症に強い環境整備(より幅広い分野での健康安全保障のための環境整備)を掲 げています。上記3つの目的を実現するためにも、必要な量の医薬品・医療技術への、迅速、公正かつ平等 なアクセスのグローバルな保障が不可欠と考えます。私たちは、一刻も早くCOVID-19 をグローバルに克服し、 パンデミックに強く、しなやかに対応できる世界をつくるためにも、日本政府に対して、南ア・インド等提 案を支持、もしくは反対しないことを求めるものです。
<呼びかけ>(五十音順)
(特活)アジア太平洋資料センター(PARC) 共同代表 内田聖子
(公財)アジア保健研修所(AHI) 事務局長 林かぐみ
(特活)アフリカ日本協議会 共同代表理事 津山直子・玉井隆、国際保健ディレクター 稲場雅紀
(特活)国境なき医師団日本 会長 久留宮隆
(特活)シェア国際保健協力市民の会 共同代表 本田徹、仲佐保
世界民衆保健運動(People's Health Movement) 日本代表幹事 宇井志緒利
(公社)日本キリスト教海外医療協力会 会長 畑野研太郎
「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会は、COVID-19パンデミック下において、途上国・新興国への新規医薬品・新規技術の公正・平等なアクセスをグローバルに保障していくことを目的に政策提言を行う市民社会団体の連絡会として設立されました。連絡先は以下の通りです。
〇連絡会事務局 (特活)アフリカ日本協議会(担当:稲場雅紀、廣内かおり)
〇東京都台東区東上野1-20-6丸幸ビル3F
〇電話:03-3834-6902 E-mail:ajf.globalhealth@gmail.com
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この要望書では、便宜上、「先進国」と「途上国・新興国」という用語を使っています。私たちは、この用語を、最も適切な用語と考えて使っているわけではありません。グローバル化が進んだ現在においても、高い技術を持つ先進国が、知的財産権の強化や世界化によって利益を上げる一方、途上国・新興国がこれによって損害を被っているという分断構造は存在しています。こうした分断構造を表す、より適切な用語としては、以前から、北半球に先進国が多く、南半球に途上国・新興国が多いことから、先進国を「北の世界」(グローバル・ノース)、途上国・新興国を「南の世界」(グローバル・サウス)と呼んでおり、その方が、より適切な用語と言えるかと思います。しかし、日本では、これらの表記が必ずしも一般的でないことから、本文書では、便宜上「先進国」「途上国・新興国」という用語を使っています。
国際分業の形成の中で、技術を開発した先進国由来の多国籍企業が、知的財産権によって技術と最終利益を独占しながら、製造については途上国・新興国の企業に委託して大量生産を行うのが通例となっており、こと製造・生産能力については、一部の途上国・新興国と先進国の間に、差はなくなってきています。ところが、知的財産権を活用して利益を独占する側(先進国)と、それによって公正なアクセスを阻害され、損害を被る側(途上国)の分断は、例えば生産能力において差がなくなってきているにもかかわらず、知的財産権などのルールによっていまだに厳然と存在しています。この提案は、COVID-19という未曽有の脅威を前にしてもなお、こうしたルールによる分断とそれによる不公正を維持し、技術の共有化とイノベーション、公正なアクセスを阻害し続けるのか、それとも、COVID-19の収束のために、共有と協力に向けた新たなルール作りに進むのか、ということを問うているものです。
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