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[マイノリティと健康vol.8 ] 高次脳機能障害者に対する誤解-病気への周囲の共感的理解が改善を助ける-

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高次脳機能障害者に対する誤解
-病気への周囲の共感的理解が改善を助ける-

「高次脳機能障害」と言う言葉が普及したのは2001年に始まった国のモデル事業からであります。ただし、これは国の障害者政策の色合いが強く、失語症は典型的な高次脳機能障害であるにもかかわらず、身体障害に認定されているからと外されていました(昨年春に組み込まれたが)。

ところで、高次脳機能障害とは何か。これは、脳卒中、脳外傷などにより発症する。脳は運動や感覚などの要素的機能と記憶、言語、感情などの高次脳機能と大きく二つに分かれます。要素的機能は動物共通であり、高次脳機能は人間特有の機能と考えられるため、症状なのか人間の特性なのか、誤解が生じやすい。具体例を以下に述べます。

失語症:言語中枢は右利きの人では左半球の中央部(前頭葉後部、頭頂葉、側頭葉上部)にあり、その損傷により失語症が出現し、「聴く」「読む」「話す」「書く」の4つが大なり小なり難しくなります。重度の場合、単語の理解がわずかであり、あいさつ語なども発話できないし、自分の名前も書けません。しかし、思考力、判断力、記憶力は残っていて、わずかにわかる言葉や相手の表情などを読み取って判断できます。そのことを知らないで、周囲の人々が本人は日本語が通じなくなっただけでなく判断もできないと思って相手にしなくなると、本人はそのことをわかっても言えない自分がいることを実感して落胆し、徐々に話す気にもならなくなります。通常でも自分の意見が言えない、右片麻痺で自由に行動できない、などの状況であり、閉じこもることにつながりやすい。このようなもどかしさを常に抱いていると、気持ちに余裕がなくなり、ちょっとしたことで怒りにつながります。会話ができれば、口論にとどまるが、自分の意見が言えない状態であれば、怒ることが「表現」となります。ただし、周囲からは高次脳機能障害の「易怒性」ととらえられることが少なくありませんが、家族には「怒る」が、第3者には遠慮して怒らないことが多く、相手を選んで自制することができるということは、どんな状況でも怒るという易怒性という高次脳機能障害の「症状」ではなく、感情であります。

軽度の場合、短文は問題ないが、長文になると難しいことがあり、周囲の人々は日常会話ではよどみがなくて失語症があるとわかりません。そして、周囲の人々が普通のスピードで長く話すようになりと、本人は十分に理解できず、相手に的確に返事ができなくなり、困惑し、会話が億劫になります。

これらのことを理解して、失語症の人と会話をしないと徐々に交流が細くなります。

20150813.jpg左半側空間無視:右利きの人では、右半球の頭頂葉、側頭葉上部の損傷で出現します。視野の障害ではなく、認識の障害であります。左脳が右視野を受け持ち、右脳が視野全体を統合をしているという説があり、右脳が損傷を受けると左視野の認識が低下し左半側空間無視が起きます。図のように左側の部分を描かない症状であり、しかもその事を認識できないか乏しいので、本人と周囲が見ている情景が違うことになります。例えば、食事の際左にある器に手をつけないため、家族は左右の器を交換する必要があります。歩行時に左側の柱などにぶつかり、左片麻痺があると転倒の危険が生じます。このような状況を知らないと、周囲の人々は危険を回避するため注意するが、本人はその認識がないので反応しないことが多い。すると、周囲の人々は「病気して性格が変わったのか、注意しているのに聞いてくれない」、との発言につながり、口論になりやすい。左片麻痺があって家族と口論するような状況になっている場合には、左半側空間無視という症状であることが多いです。

記憶障害:記憶障害は全体的に記憶がないのではなく、古い記憶は残っているが、発症後の現在までの新しい記憶が残らない症状であります。すなわち、目の前で起きていることは過去の記憶、知識で判断できますが、10分、30分前と繋がっている現在の状況を的確に判断できない症状であります。例えば、近所の人に会うと、以前の記憶でその人の名前は出てきて、「○○さん、今日は天気がいいですね」という挨拶はそつなくできるので、短時間しか会わなければ、近所の人は入院したが、何も変わっていないと判断します。ところが、少し長く話をすると話がかみ合わなくなり、うまくできていない雰囲気は判断できて、そこをうまく切り抜ける智恵・術はあるので、なかなか症状と気づきにくいことが多い。すると、家族は日常生活の大変さが分かってもらえないと落胆することになります。

高次脳機能障害のいくつかの例を示しましたが、上述のように誤解を生みやすいことはある程度頭では理解できでも、胸にストンと落ちるまでに時間がかかると思います。ただし、本人が少し努力して興味ある活動あるいは役割をすれば、高次脳機能障害は半年~年単位で改善するので、地域での生活は重要となります。そこで、家族はできるだけ周囲の人々に知ってもらい、本人と周囲の人々との交流を重ねて充実した生活が送ることができれば、少しずつではあるが着実に改善する方向に向かいます。

2015年7月23日

hasegawa.jpg長谷川 幹
島根県生まれ。現在、東京都世田谷区・三軒茶屋リハビリテーションクリニック院長。
1974年東京医科歯科大学を卒業後、整形外科医を経て、東京都世田谷区の日産厚生会玉川病院に先駆的なリハビリテーション病棟の開設を導いた。その後、1988年以来、都市型のCBR(地域に根差したリハビリテーション)を診療所ベースで追求し、訪問リハビリテーションを通じて、在宅の障害者、高齢者がその人らしい生活を自ら計画、実践できるように援助している。
また行政や多職種間の連携を通して、患者、クライエント中心の地域ケアを模索している。 脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会代表も務める。
著書:「地域リハビリテーション―あせらずあきらめず」 (岩波アクティブ新書)、「主体性を引き出すリハビリテーション」(医歯薬出版)など。

DVD:第29回日本国際保健医療学会 東日本地方会「マイノリティと健康 いのちの格差をどう縮めていくか」

dvd.jpg2014年5月24日に国立国際医療研究センター(東京)で行われた、第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康 -いのちの格差をどう縮めていくか-」の記録DVDです。6枚組みでの販売です。

<1巻>
Disc.1:開会式、基調講演、全体会
Disc.2:ホームレス
<2巻>
Disc.3:難民
Disc.4:在日外国人
<3巻>
Disc.5:HIV/AIDSとセクシャルマイノリティ
Disc.6:発達障害者

価格(税込): 4,320 円

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