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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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今、NGOが果たす市民社会への役割 vol.1

伊藤道雄氏インタビュー



vol1.現代の日本社会におけるNGOの役割 

小林由紀男(シェア事務局長):日本の政治がどんどん動いている中で、「市民」という言葉だけが特殊な言葉のまま置き去りに去られている気がしているのですが、今の市民社会の中でのNGO/NPOの役割、あるいは、なぜ日本社会にNGO/NPOが必要なのかという点について、お伺いしたいと思っています。どうぞよろしくおねがいいたします。
伊藤道雄:よろしく。

市民社会とはそもそも何なのか?

小林:まず最初にお聞きしたいのは、伊藤さんにとって、『市民社会』とは、そもそも一言で言うと何なのか。

伊藤:うーん、そうですね、、、。一言で言えとおっしゃるなら『個々人が自発的に、自立性・自律性を持って社会参加する、そういった社会』、だと私は思います。

小林:難しいですね(笑)いわゆる「庶民」と「市民」は違うと思うのですが、伊藤さんの中で、「庶民」と「市民」はどこが違うのでしょうか?伊藤:「庶民」という概念は、一般の民衆という意味でもあると思いますが、政治や経済問題などについて「まぁ難しいことは言うな。一杯飲もうや」とか、落語で出てくる江戸時代の長屋の熊さん八っつぁんの世界で、「向こう三軒両隣」で仲間意識があり、必ずしも主体性を持った、自立した「個」は意識されていない。また、支配される一般大衆を意味する概念だと思います。一方、「市民」という概念は、権利意識を持ち、政治・行政とも対等な立場で「ものを言って、行動し、社会参加していこう」という自立性・自律性を持った、言葉を換えれば、主体性ある個人を意味するのだと思います。

小林:そのときに、日本社会というのは民主主義社会と言われていて、社会参加・政治参加は投票という形で行うことが許されています。投票に行くこと、自分が被選挙権を行使して政治に参加するということが、ひとつ、国民とか○○市民・区民とか行政に属している住民としての権利だと思うのですが、それを超えて市民活動・市民社会に参画していくということの意味というのは、どういうところにあるとお考えですか?

伊藤:それは、「個人」が、行政上の枠組みとか制約に囚われずに、一人間として、同じ考えを持つ仲間たちと自発的に社会組織をつくり自由に活動を行うことにより、個々人の思いを中心にした人間味溢れる社会づくりに繋がるものだと考えています。言葉を換えれば、行政が行う公共活動のほかに、市民が自分たちの手で行う「もうひとつの公共活動」だと言えます。「国民」「県民」「市民」「町民」「村民」などという表現がありますが、これらの概念は、一定の行政区域の中に生活する地域住民で、行政を中心単位にしたものの考え方だと思います。そこには行政に治められる住民というニュアンスもあるように感じます。一方、「市民」という概念は、そうした行政の枠組みに囚われずに、独立した考えで動こうとする人のことのように思います。実際、現代社会の人たちは、そうした行政単位を超えて職場を持ち、生活しているわけですから。因みに、ここで使っている「市民」という用語は、行政単位の「市」の地域住民でなく、冒頭に言った自立性・自律性を持って社会参加している「市民」のことですが。

小林:その場合に、個人が、行政とは違う意識を持って社会に直接参画していくということと、それが集団となってNPOとかNGOとか、任意団体という形でグループとして行政に働きかけていく、という違いがあると思うのですが、「個」ではなくグループで、NGO/NPOとして働きかけていくという意味はどこにあるのでしょうか?

伊藤:それは、より大きな効果を発揮したいという考えからではないですか。また、人というのは、元来、仲間づくりをしたがる性質を持っていますしね。また、完全に一人で行動して物事を成し遂げようとするのは難しいですから。したがって、民主主義社会というのは、そのようにして出来た多様な社会組織やグループが大きな役割を果たす社会として理解することも出来ますよね。そのときに、行政に引っ張られて出来た組織でなく、主体性を持った個々人が、社会組織を作って公共活動を行う、社会に働きかける、それが本来のNPO/NGOの姿だと思います。


NPO法(特定非営利活動法人)の問題点

小林:日本では、いわゆるNPO法、今の特定非営利活動法人というものが生まれたのが、市民運動・社会運動におけるひとつの大きな区切りというか、エポックメイキングなことだと思うのですが、伊藤さんはこのNPO法についてはどうお考えですか?

伊藤:市民活動が公に認められたものとして、非常に高く評価しています。ただ、名称については納得していません。この法律は、1998年に成立したのですが、元々の法案の名称は『市民活動促進法案』で、市民団体関係者と超党派の議員連盟の努力で、この名称で衆議院を通過したんですが、参議院に送られたときに、「市民」という言葉を嫌う保守的な議員の人たちが「法案の名称を変えるなら通してもいい」ということで、『社会奉仕法案』という名称が提案されてきたのです。市民団体関係者の間では『社会奉仕法案』という名称は受け入れ難いということで、当時のある社民党議員のご努力があって、妥協として『特定非営利活動促進法』の名称で成立したのです。非営利活動の中でも、法律で定められた特定の17領域の活動―この活動は、市民側が提案したものですが―を行う団体について規定し、法人格を付与する法律という意味ですが、、、。そしてこの法律の略語が、当初は、カッコ付きで(いわゆるNPO法)と紹介されたのですが、いつの間にか、「特定非営利活動促進法」の"特定"の英語訳が抜け落ちたまま、マスコミでNPO法と呼ばれるようになり、この法律で法人格を得た団体をNPO法人と呼ぶようになったのです。しかし、その呼び方は正しくないですね。NPOはNon-profit Organizationの略語で非営利組織を意味しますから、その意味では明治時代に制定された民法34条の公益法人もNPOですし、社会福祉法人もNPOですからね。グローバル化した現在、この新しい法律をNPO Lawと英語訳したら、日本は遅れていて、このような法律が最近になってできたのかと笑われますね。実際にあったことですよ。それは、ともかく、この法律が成立したことは、「日本の市民ここにあり」ということを示すことが出来て、非常に大きなエポックメイキングだったと思います。

小林:財団法人とか社団法人とか、いわゆる公益法人と、どの部分で大きな意味があるとお考えですか?

伊藤:特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)は、市民が参加して作った法律です。一方、公益法人制度は、少しややこしくて整理が必要だと思いますので、そのあとで両者を比較してみますね。これまで、民間が教育や海外援助などの分野で法人格を取得して公益活動を行おうとする場合、明治31年に施行された民法34条の公益法人の資格を必要としていました。しかし、この法人は、政府、もっと厳密にいえば、活動分野を管轄する省庁あるいは地方自治体の許可が必要で、法人格を取るのに数年もかかり、法人格取得後は、行政機関の指導・監督下に入っていたのです。それが、公益法人として許可された団体の間で不祥事があったり、政府のいわゆる外郭団体としての公益法人のあり方が問題になったり、一方、民間側からもっと自由な公益活動を求める要請が出てきたりして、公益法人制度の改革が進むことになったのです。そしてその結果、2006年に新しい法律が出来、2008年に施行されたのです。その中身は、2段階方式になっていて、第1段階は法人格取得に関わるもの、第2段階は公益法人としての認定に関わるものです。第1段階の法人格取得は、非常に簡便になり、大げさに言えば、希望すれば誰もが組織を作り財団法人あるいは社団法人の資格が得られるようになったのです。この段階での法人は「一般法人」と呼ばれます。しかし、税制上の優遇措置を得ることの出来る「公益法人」の資格を得るには、内閣府に設置されている公益認定等委員会や地方自治体で設置されている同様の審議機関による認定が必要です。いわゆるNPO法人の世界では、この「公益法人」に相当するものが「認定NPO法人」と言われるものです。ただし、「一般法人」と「NPO法人」が相当するという意味ではありません。NPO法人では、公益性を持つと特定された活動を行うことが前提条件になっている一方、一般法人では、公益性がない趣味のグループとかスポーツの同好会でも法人格を取ることは出来るのです。 それでは、特定非営利活動法人、いわゆるNPO法人と、一般社団法人、一般財団法人と、認定を受けた公益社団法人そして公益財団法人とはどこが違うのか、違いの意味がどこにあるのかということですが、第一には、先ほど、述べましたように、前者は市民が参加し、議員立法で作られたもので、市民の思いが入っていると思います。後者は政府がイニシアティブを取りながら、パブリック・コメントを聞いて作られてきたものということで、民間は参考意見を聞く対象として扱われてきたと思います。もちろん、当時の(財)公益法人協会は、民間の意見をまとめて提言書を出されていましたが、、、。第二には、いわゆるNPO法では、市民のサポートが重要な要素であり、認定NPO法人格をとるには、パブリック・サポート・テストと言って、市民の寄付が占める割合を基準に認定されることになっています。一方、一般社団法人や一般財団法人が公益法人として認定されるには、有識者による公益認定等委員会が審査するわけですが、事業内容の公益性と財務内容の審査のため要求される文書・資料は膨大なもので、200ページ近くになるとのことです。小さな市民団体なら、対応するのは難しいでしょう。 本来ならば、2008年に施行された新しい公益法人に関わる法律の下で、いわゆるNPOも組み込まれる予定だったと聞いていますが、市民団体関係者から反対運動がおきて、公益活動に関わる団体の法人制度が、現在、二つ並行して存在しています。今しばらく、この二つの法律が並存していくでしょうから、社会活動、公益活動を目ざす市民団体は、選択肢が二つあることになります。公益性云々ということを気にしなければ、一般法人という極めて簡便な法人格取得の方法もありますから、それぞれの団体が内部で議論されてお決めになれば良いと思います。

小林:特定非営利活動法人というのは、大きく『官』から独立しているんですよね。そういう意味において、非常に大きな意味を持ったと思うのですが、今、NPO法人は4万を越えたといわれていますが、その中には寄付金を全く受け取っていないとか、事業が行政の、あるいは企業からの委託であるとか、そういうNPOもたくさん含まれていて、大きな批判を浴びているところです。いわゆる『下請け化』ですよね。今のNPO界全体を見て、NPO法の精神に則って、上手くこの制度がまわっているとお考えですか、それとも問題があるとお考えですか?

伊藤:小林さんがおっしゃったことは、日本の市民社会の現実を表していると思いますよ。まだ、成熟していないんですよね。市民団体を作ろうという人たちの間にも自立した市民意識が十分でない、、、。どうしても安易に行政の資金を求めようとするんですよね。ある意味で仕方ないことかなと思うのは、市民団体を支えようとする一般の人たちの間にも、市民意識が育っていない。したがって、特定非営利活動促進法は、意識の高い一部の市民が議員と協力して作り上げてきたものと言ってもいいのかもしれませんね。ただ、歴史は、常に意識に目覚めた人たちが、道筋を作り、その後に大きな流れになっていくものですから、いつかは市民によって支えられる市民団体が普通である時が来ると思いますよ。それまでに、行政の委託金に依存する「下請けNPO」が多くなり、「自立したNPO」の肩身が狭くならないように願っていますが。

小林:NPO法人の中に、多くのいろいろなものが混じっているのは、ある意味当然のことだと言えるかもしれません。しかし、それを一般の人から見て、整理してく必要があるのであれば、それは行政ではなく、NPO界そのものの責任だと私は思うのですが、それはどのようにお考えですか?

伊藤:同感です。そのためには、市民団体自らが、自分たちはどういった組織なのか組織・行動基準を作り、自分たちに言い聞かせると同時に、社会に説明していく必要がありますね。私がよく訪問するフィリピンでは、NGO関係者が自らの手で作り上げた認定機関があります。もちろん、この背景には、外国政府等の援助機関から助成金を受けるためという動機が強く働いていたと思いますが。それはともかく、日本でも、NPO関係者が自らの襟を正すという姿勢で、こうした認定機関を作る必要がありますね。行政がそうしたものを作る前に、行動を起こしたほうが、、、。

小林:いくつかの試みとして、伊藤さんも深く関わっていらっしゃるJANICなどが、アカウンタビリティ・チェックなどを作っていますが、なかなか普及しないというのが現状なのですが、どこに原因があるとお考えですか?

伊藤:一つは、動機づけに結び付いていないのではないですか。何事も、きれいごとではうまく行かないと思います。実利的な動機に結び付けるとか。例えば、アカウンタビリティ・チェックに合格した団体は、社会に公表して、寄付をされても安心ですよとかのメッセージを発信するとか。また、JANICのメンバー団体を対象としていますから、強く推進するのに遠慮があるのかも。それなら、第三者機関をつくって、そこでアカウンタビリティ・チェックの認定書を出すとかするのも。 それから、もっと根本的な問題として、JANICが用意した基準をクリアできる自信を持っている団体が少ないのかもしれませんね。この背景には、説明責任をしっかり果たそうとしても、組織基盤を強化する財源が乏しいということがあるのではないですか。例えば、専門性を持つ会計担当者を置くとか、事業記録をまとめ文書管理をし、事業の評価結果を公表するとか。こうした人的体制を整えるだけの資金がないのです。寄付する人や、助成財団や政府機関もこうした側面の経費には支援しませんしね。悪循環ですよ。

伊藤道雄伊藤道雄
AIIC(the Asian Institute for Intellectual Collaboration:アイック)特任教授。アジア・コミュニティ・センター21代表 理事。21世紀社会デザイン研究学会理事。国際協力NGOセンター(JANIC) を仲間と共同で創設、常務理事を務める。現在JANIC及びシーズ顧問。
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