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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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[マイノリティと健康vol.3] アルマアタ宣言「すべての人に健康を」を再考する機会に感謝

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アルマアタ宣言「すべての人に健康を」を再考する機会に感謝


20150326.jpg国際保健医療学会学術大会は、様々な国・地域と保健医療の各分野での研究・活動発表に多くの刺激を受ける全体会への参加はもちろん毎回の楽しみであるが、地方会もまた、学会長の先生方が国際保健医療分野へかけてこられたそれぞれの特徴的な「思い」が色濃く感じられ、その「思い」に根付いた長年に渡る諸活動をより深く学ばせて頂ける、大変楽しみな機会である。シェア=国際保健市民の会の代表、本田さんを会頭として企画された第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康」は、1)難民、2)在日外国人、3)HIV・エイズとセクシャルマイノリティ、4)ホームレス、5)発達障害者 という5つのグループの支援を取り上げており、本田さんならではの企画のように感じて参加を楽しみにしていた。日頃お世話になっているシェア、そして本田さんのお手伝いができるなら、力仕事でも何でもさせて頂くつもりでいたものの、5つの分科会を渡り歩き、最後の全体会で本田さんとの共同司会という、思ってもいなかった大役を仰せつかった。当日は不安と緊張で少々落ち着かなかったが、普段なら、自身の興味がより強い分科会にとどまって、もしかすると足を運んでいなかったかもしれない分科会も隈なく「はしご」することで、今さらながらの気づきがなんと多い地方会参加であったかと感じている。
難民分科会では「法律」という壁について、在日外国人分科会では「当事者」の自助努力に対する支援の重要性について、事例を通して学ぶことができた。HIV・エイズとセクシャルマイノリティ分科会では「当事者」の課題は社会全体の課題であることの認識が必要であること、そのための「リアリティ」の可視化と共有が必要だと、「当事者」の議論が展開され、これまで自分の中ではまだ漠然としていた課題が明瞭な表現で整理されていく爽快感に浸った。ホームレス分科会では行政を含めた複数機関のネットワーク構築の重要性などが熱く語られた。一方、ホームレス支援の経験がこれまでない筆者にとっては、分科会での一つ一つの語りが「課題の認識」という、「知ることの第一歩」であった。発達障害者分科会では、対象者の「コミュニケーション力」を伸ばすための支援についての紹介がとても印象的だった。すべての分科会で共通していた「生きづらさ」を感じる人々をどう支援していくかというテーマは、国内外を問わず支援に携わる人々の課題である一方で、国外を体験したことがあればこそより実感できる課題のようにも思えた。

全体会でも少し話をさせて頂いたが、筆者が国際保健医療学会に足を踏み入れた頃は、国を飛び出して海外に赴き、途上国の人々のために活動することへ大いなる憧れがあった。国際保健医療の活動とは海外で行うものという固定観念が強く、同じく全大会でシェアの沢田貴志氏(在日外国人分科会座長)が紹介してくださった途上国の人の言葉、「あなたたち国の保健問題になぜもっと取り組まないのか」だとか、医師・探検家の関野吉晴氏(基調講演・演者)の「自分の住んでいるところで足元を見ることの大切さ」といった視点への気付きが当時はあまりなかったように感じている。世界全体でグローバル化が進む今日、日本も例外ではなく、在留外国人の数は現在200万人を超え、外国人新規入国者数は年間増加率20%を超えて1000万人に至っている。このような状況下、外国人の支援はどこか遠い世界での話と捉える傾向にあった筆者勤務先大学の学生たちが、国内にこれだけ増えている外国人への支援が必要と考えるようになった変化を感じている。そのような学生の一人が、グローバル化が進む日本における、食と栄養分野の仕事に携わる人々に求められるものをテーマとして卒業研究に取り組んだ。見えてきた「求められるもの」の中に、異文化を持つ外国人への関心と、共感できる感受性、そして語学にとどまらないコミュニケーション力などがあった。そしてそれらは、国外を体験することで国内の問題をより認識することができる「海外経験」が土台となって醸成されると多くの人が考えていた。この研究を実施したのは東日本地方会後であるが、地方会ではまさに、海外で保健医療協力に携わってきたからこそより実感できる国内の問題があると感じたことが、ここにつながった。

5つの分科会がそれぞれ対象とした「マイノリティ」グループの人々は、それぞれ違いはあるものの、共通して「異文化」を持つ人々といえるように思う。今回、新たな「異文化」が認識できたのは、発達障害者分科会の中でのことであった。「文化」は、生まれ育った地域によって異なるだけでなく、同じ国や地域の中でも年代によって、性別によって異なる場合もある。自分と年代や性別が異なる人々もまた「異文化人」である。文化に優劣はなく、それぞれ異なる文化を認め、共存していくことができることが「国際人」としての資格だと、そのような「国際人」を育成することの重要性を、私が所属する大学の国際プログラムでは謳っている。
発達の段階は人それぞれであって当たり前であるのに、自分たちの「普通」というものさしからはずれる人たちを発達障害と考えること自体に疑問が生じる。発達障害者とは私たちが住む社会のものさしが作り出したカテゴリーであり、「自分たちとは違う」=「異文化」であるなら、私たちに課された課題はただシンプルに、異なる文化に優劣つけず、認めて共存すること、のように思える。他の4つの「マイノリティ」支援にも共通する課題であるように感じた。 この東日本地方会のサブ・テーマであった「いのちの格差をどう縮めていくか」は、国際保健医療協力に携わる人々が大切にしてきた「すべての人に健康を」と謳ったアルマアタ宣言でのPHC理念の実践が、国内でこのように必要とされているのだと、筆者自身への強いメッセージとなった。

2015年3月25日

mizu.jpg水元 芳
福岡女子大学国際文理学部・准教授、管理栄養士。国内の病院で6年の勤務後、1992年に青年海外協力隊栄養士隊員としてソロモン諸島で2年間の栄養改善活動を行う。海外活動では、ミクロネシア連邦(2000-2002年)、ボツワナ(2004年)で協力隊調整員、南アフリカでJICA企画調査員(2005-2008年)などの業務に携わる。2003年にタイ、マヒドン大学でプライマリ・ヘルス・ケア管理修士号を取得。2003年にタイ、マヒドン大学でプライマリ・ヘルス・ケア管理修士号を、2010年に大阪大学で博士号(人間科学)を取得。

DVD:第29回日本国際保健医療学会 東日本地方会「マイノリティと健康 いのちの格差をどう縮めていくか」

dvd.jpg2014年5月24日に国立国際医療研究センター(東京)で行われた、第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康 -いのちの格差をどう縮めていくか-」の記録DVDです。6枚組みでの販売です。

<1巻>
Disc.1:開会式、基調講演、全体会
Disc.2:ホームレス
<2巻>
Disc.3:難民
Disc.4:在日外国人
<3巻>
Disc.5:HIV/AIDSとセクシャルマイノリティ
Disc.6:発達障害者

価格(税込): 4,320 円

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