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[マイノリティと健康vol.6] マイノリティと健康格差: ホームレス研究から見えてきたものと今後の抱負

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マイノリティと健康格差: ホームレス研究から見えてきたものと今後の抱負


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大都市住民の健康問題をまなぶ
医学部卒業後、勉強させていただいた阪大公衆衛生教室では、主たる研究テーマのひとつが「大都市住民の健康問題」であった。当時から大阪府、特に大阪市、中でも西成区、ことに釜ケ崎の、平均寿命をはじめとする健康指標が全国一悪かった。大阪の医師が皆、やぶ医者だという評判があるわけでもない。なぜだろうか、というのが私自身の生涯続く問題意識である。大阪府保健所の医師として働く中で、住民により近づいた実践的研究をすすめるうちに"大都市住民の健康破壊は社会・経済的問題が大きくかかわっている"ということに強い確信をもつようになった。生活問題をもっと学びたいと社会福祉(通信教育)を学び始めた頃、大学の社会福祉学部から教員としてこないか、というお声をかけていただいた。授業料を出すより、給料をいただいて学ぶ方がいいかな、と思い、通信教育を中退、保健所を退職し、社会福祉学部で地域保健福祉学を担当させていただくことになった。

大阪市内のホームレス死亡調査
当時、深刻な不況が長引き、特に都市部でホームレスが急増、大きな社会問題となっていた。大阪市内では、公表されている野宿生活者数だけみても8660人(1998年の野宿者の概数・概況調査より)が把握されていて、全国大都市中最も多かった。自分たちでも何かできることがあるのではないかと公衆衛生教室で学んだ仲間(黒田研二・高鳥毛敏雄)と相談、まずは特別な研究費がなくてもできそうな「大阪市内のホームレスの死亡調査」をはじめることにした。2001年、大阪府監察医事務所と大阪大学大学院法医学教室の協力を得るために、菓子箱ひとつもって挨拶にいくことから、研究開始。2000年に大阪市内において異状死体またはその疑いのある死体として警察に届出のあったもののうち、野宿していると確認または推測されるものの死亡213例と野宿予備集団として簡易宿泊所投宿中のものの死亡81例、合計294例を分析対象とした。死亡平均年齢は56歳と若い。驚いたのは、死因が結核である死亡19例、死因は結核以外であるが活動性結核(治療が必要な結核)がある死亡10例、合計29例が結核に関連した死亡だったことである。これは、分析対象ホームレスの死亡総数294例の1割にあたる。さらに相当数がミイラ化(1例)・白骨化(6例)・高度腐敗状態(24例)で発見されていた。犬や猫でもこんなことはなかろうに、と思わずにはいられない。

大阪ホームレス健康問題研究会開始
今にも同じような状態で死を迎えそうになっているホームレスが多くいるにちがいない。自らがホームレス問題についてさらに学ぶために2001年から大阪ホームレス健康問題研究会を設立、定期的に開催するうちに参加者がどんどん増加していった。(無料の会場・講師料なし・参加費無料・口コミによる連絡のみ)

日雇い労働者のまち・釜ケ崎でホームレスの生活・健康実態調査
いくら厚かましくても、生きているホームレスの調査研究を、菓子箱ひとつで始めるのは無理なので、厚生労働科研補助金をいただき、「大阪市高齢者特別清掃事業従事者の健康・生活実態調査」(2003年~2005年)を開始した。調査場所は釜ケ崎。当時釜ケ崎では、長引く不況の大波をまともにかぶり、多くの日雇い労働者が、日雇いからも失業し、野宿を余儀なくされていた。大阪市高齢者特別清掃事業とは、このような釜ケ崎のホームレスのうち、55歳以上を対象とする公的就労事業である。(公園や道路の清掃に従事。ほぼ2500人が登録。予算に対して登録者が多いので、8~9日に一度しか掃除の順番が回ってこない。1日就労すると5700円。集合場所は釜ケ崎。)聞き取りによる生活状況把握、結核検診(間接Ⅹ線撮影)・血圧測定・血液検査・身長体重測定を3年間実施。血圧を測定すれば、最高血圧が250を超えるような人が何人もいるという、恐ろしい状況であったが、なにより驚いたのは"結核要治療者が50人にひとり"という発見率である。1年目は6月中旬に研究費決定通知があり、調査実施の夏休みまでに十分な準備ができず、結核要治療のうち何人かは治療に結び付けられないまま終わってしまった。結核が発見されても「死にたいんや。ほっといてくれ」となかなか治療を承諾してくれない人が多いのもこたえた。2年目以降はその反省を踏まえて、毎日5~6人はみつかる結核要治療に対応するために、事前に関係機関・団体(大阪市保健所・大阪市立更生相談所・ホームレスを受け入れてくれる結核病院・大阪社会医療センター附属病院、釜ケ崎支援機構・大阪市福祉局保護課など)との事前調整・連携体制づくりを行なった。また調査に協力していただくボランテイアを確保するために、保健所時代に共に働いた保健師さんが教員をしている看護師・保健師養成専門学校、短大、大学に出向き、教員の担当時間を1時間つかわせていただき、死亡調査結果や1年目の検診結果などについて紹介し、夏季休暇中に実施する調査への協力をお願いした。その結果、調査期間中毎日早朝から30人を超える学生・保健師・看護師・医師・教員などがボランテイアとして参加してくださった。おかげで結核要治療者にマンツーマン的サポートを実施でき、すべての要治療者を必要な医療につなげ、全員が治療を終了することができた。

釜ケ崎以外のホームレスの生活・健康調査とCR結核検診車
2004年~2006年には学振科研補助金をいただき、前述した釜ケ崎以外の大阪駅前・中之島公園や大阪城公園・淀川河川敷のホームレス(テントを持たない移動型のホームレスも多い)を対象に、大阪ではじめてCR結核検診車(結核専門医がいれば、すぐに検診結果判定可能。兵庫県から借りた。)を使用して調査実施。大阪市では、釜ケ崎以外では、ホームレス対象の結核検診実施が初めてであったためか、なんと結核要治療は受診者30人に1名。「なんでも相談会」も同時に実施。1日で250人以上の多種多様な専門職や学生がボランテイアとして参加してくださった。

NPO HEALTH SUPPORT OSAKA設立(2006年~)
大阪市保健所は2006年4月からCR結核検診車を釜ケ崎にて使用開始。大阪市保健所から、釜ケ崎でのCR結核検診業務の一部とDOTSの協力を依頼されたこともあり、これまで研究に携わってきたものが中心になってNPOを設立。委託業務の他、研究会継続、学生の実習や講義、釜ケ崎見学受け入れなど人材育成を行なう。

NPO HEALTH SUPPORT HINATA設立(2012年~)
近年釜ケ崎の元日雇い労働者たちは高齢化が進み、生活保護を受給してアパートで独り暮らしするものが増えている。生保を受けても、閉じこもりや欝状態、アルコール依存、自殺、孤独死にいたるものもいる。そんな状況を見かねた心優しい看護師たちが集まり、NPOを設立。訪問看護を実施する他、見守り支援活動・健康相談・居場所づくり・入院退院支援活動なども行っている。逢坂自身はあまり役立ちそうにも思えないが、73歳の老身にムチ打って?枯れ木も山のにぎわいとやら、何かの役にたてればと理事長を引き受けた。
まだまだ課題が見えてくるばかりで、解決への道筋さえ定かでない。「継続は力なり」という先人の言葉を信じて、多くの仲間とともに、一歩ずつ進んでいくほかないと考えている。 
本研究は多くの皆様と共同して実施したものばかりです。この場をお借りして心からお礼を申し上げます。

2015年4月28日

逢坂隆子
大阪大学医学部卒業後、公衆衛生教室にて主として「大都市住民の健康問題」について研究。その後14年間大阪府保健所医師。保健所長として勤務のかたわら、佛教大学社会福祉学部(通信教育)を受講(中退)。花園大学社会福祉学部・大学院教授を経て、四天王寺大学大学院人文社会学研究科社会福祉専攻教授(2013年定年退職)。現在大阪公衆衛生協会理事・NPO HINATA理事長。
主な論文
「わが国の中年期死亡に関する統計的観察(第1報)中年期死亡の動向および国際比較」ならびに「同(第2報)中年期死亡の社会医学的意義」:『日本公衆衛生学雑誌』第27巻第3号1980および第27巻第4号1980
「大都市スプロール地帯の住民生活と健康―大阪市外縁・庄内地区住民の生と死―」:『社会医学研究』(日本社会医学会誌)第1巻1980
「特集;健康問題をいかに把握するか―社会医学的方法論の視点から―」:『社会医学研究』第8巻1989
「大阪市におけるホームレス者の死亡調査」:『日本公衆衛生学雑誌』第50巻第8号2003
「胸部レントゲン検診実施に基づく野宿生活者の結核対策の実践的研究」:『社会医学研究』23号2006

DVD:第29回日本国際保健医療学会 東日本地方会「マイノリティと健康 いのちの格差をどう縮めていくか」

dvd.jpg2014年5月24日に国立国際医療研究センター(東京)で行われた、第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康 -いのちの格差をどう縮めていくか-」の記録DVDです。6枚組みでの販売です。

<1巻>
Disc.1:開会式、基調講演、全体会
Disc.2:ホームレス
<2巻>
Disc.3:難民
Disc.4:在日外国人
<3巻>
Disc.5:HIV/AIDSとセクシャルマイノリティ
Disc.6:発達障害者

価格(税込): 4,320 円

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