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本田徹の「世界保健紀行」vol.2

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バイオエシックス(生命倫理)と医学・看護学教育

二人の研究・教育者との出会い
今回の世界一周保健紀行で私が大きな楽しみにしていたことの一つは、アメリカでバイオエシックス(生命倫理)の二人の卓越した研究・教育者にお目にかかることでした。一人は、世界のバイオエシックスを、学問としても社会的活動としてもリードしてきた、ジョージタウン大学の「臨床バイオエシックス研究センター」所長で、自身、カソリックの修道者、看護師でもある、キャロル・テイラーさん。もう一人は、ケースウェスタン・リザーブ大学医学校の森川雅浩さんの同僚で、バイオエシックス学部の長をされているステファン・ポストさんでした。

バイオエシックスとは
バイオエシックスとは、日本におけるこの学問のパイオニア・木村利人さんによれば、「ギリシャ語のビオス(生命)とエシィケー(倫理・慣習)との合成語で、1960年代後半から、主としてアメリカで使用されはじめた」言葉です。(出典:「いのちを考える」)

バイオエシックスの最もユニークな点は、単なる学問ではなく、それが「患者の権利運動として始まったこと」にあると、木村さんは指摘しています。当時のアメリカ社会の中心的問題であった、公民権運動、公害、ベトナム戦争などのうねりの中で、医療における意思決定、患者の権利に市民が目覚め、当事者としての声を上げ、それに対して、学問や医療に携わる側も真摯に応えようとする中で、バイオエシックスの考え方や価値観が、北米市民社会にコンセンサスとして根づいていったと言えます。日本でも今や完全に定着した「インフォームド・コンセント1」や「患者の権利章典」などの用語も、すべてバイオエシックスの運動の中から生まれてきたものです。直接的関連は薄く、それぞれの出自は異なりますが、バイオエシックスの精神は、「すべての人のいのちの尊重・平等」という価値観において、プライマリ・ヘルス・ケア2と深くつながっています。

バイオエシックスの学びの場
2007年9月19日、私は、秋の日差しの美しいワシントンDCにクリーブランドから降り立ち、ジョージワシントン大学に直行しました。テイラーさんは私の来るのを待ち構え、注意深く日本の医療やNGO運動のこと、去年の12月に予定されていたアフガニスタンでの医療倫理のワークショップについて耳を傾け、助言してくれました。また、ジョージタウンでの学生や看護職向けバイオエシックス・コースの講義内容や進め方について懇切に説明され、「保健専門職における倫理的・文化的能力形成」と題する、分厚い講義用シラバスをくださいました。昔医学生だった私に一番印象的で、うらやましかったのは、臨床や地域で働いてきた経験豊富なナースが、医学生と机を並べてバイオエシックスの勉強をし、現場のケーススタデイや倫理判断について、学生に教えたり、対話を共有する機会を与えてくれることでした。

ナーシング・アドボカシー3と言われる、看護師独自のバイオエシックスでの役割や、ポスト教授の、きさくで味わい深いお話、そして、アフガニスタンでのワークショップのことは、また別の機会にぜひ触れたいと思います。

1:informed-consent:説明と同意。患者が治療方法について、医師や看護師から十分な説明を受ける権利があり、また患者が治療方法に同意する、あるいは治療方法を決定する権利を持つこと。
2:23頁注釈2参照。
3:看護師による患者の権利擁護。

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写真:キャロル・テイラーさんと(左)と本田

2008年4月




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