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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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医療とは人権-優れた理念・先行例に学ぶ-

この文章をちょうど書き始めた3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震が発生し、その直後に東日本の沿岸地方を広く襲った大津波は激甚災害となった。数日後の現時点でまだ被害の全貌はつかみきれていないが、万余の尊い人命が失われた可能性が高い。犠牲となり、心身ともに傷ついた多くの方々とご家族、地域住民に心からお悔やみ、お見舞いを申し上げるとともに、保健医療NGOとして、過去の阪神淡路大震災や中越地震での救援経験をもとに、被災地の人びとにすこしでも寄り添えるような活動を開始したいと、スタッフ・支援者ともども心に期している。

さて、前回にも書いた通り、エチオピアで1年間にわたり、旱魃被災者の医療救援活動に従事した私たちは、救援活動だけに終始することの空しさを実感した。いかに住民自身が気づき、立ち上がり、みずからの健康問題を解決していけるように協力していくかということこそが、NGOにとって大切な使命・課題だと思うようになった。

その際私たちにとって拠り所となった思想が、プライマリ・ヘルス・ケアに関するアルマ・アタ宣言である。WHO(世界保健機構)の主導のもと、1978年9月、世界の140カ国の代表が旧ソ連邦のカザフスタン共和国の、当時の首都アルマ・アタ(現アルマティ)につどい、真剣な協議の後に出された歴史的文書で、その後四半世紀にわたって、途上国や一部の先進国にとって、重要な医療保健政策上の指導理念となった。プライマリ・ヘルス・ケアとは、地域住民が、「すべての人に健康を」達成するために、行政や病院・診療所などと協力しながら、自立的医療保健活動を行い、一人ひとりの命と健康を守り、増進してくための理念、方法論だ。根本には、1948年の世界人権宣言や、1966年の国連社会権規約に謳われた「基本的人権としての医療」の原則が脈打っている。

実はプライマリ・ヘルス・ケアには、日本においてすぐれた先行例があった。信州・佐久の地で、戦後すぐから無医村住民のために、予防や教育を重視した保健活動を展開し、手遅れの病気を減らし、医療費削減や健康長寿の面でも大きな成果を収めた、若月俊一院長率いる佐久総合病院である。私たちは、カンボジアや東ティモールなど途上国での保健教育活動、住民参加型のボランティア養成を行っていく上で、若月氏のやり方を大いに参考にさせていただいた。また、途上国の草の根保健ワーカーのための手引き書として書かれ、世界中で80以上の言語で数百万部以上が頒布され、実地に用いられてきた、デビッド・ワーナー著「医者のいないところで」(シェアから出版)も、参加型教育や地域ケアという面で、学ぶところの多い教材となった。 急激に少子高齢化が進み、多くの生活困窮者が孤立して生きる地域も増えている21世紀の日本で、どんな人も差別されず、命を尊重され、平和に安心して暮らし、元気に老いていけるような社会をどう作っていくか、ここにも私たちは、プライマリ・ヘルス・ケアの新しい課題を見ている。



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本田徹(シェア代表理事、医師)

沖縄平和賞連載
沖縄タイムス 2011年3月27日(日) 掲載
この記事はシェアが2010年に第5回沖縄平和賞を受賞したことをきっかけに、1年にわたり沖縄タイムスに掲載いただいたコラムです。
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