シェアの学校保健活動は、まだ「学校保健」という言葉すら知られていなかった2007年、東ティモール政府の要請により、農村山岳地帯のエルメラ県の一部で、保健教育推進プロジェクトの一環として開始されました。初等教育の就学率の高さ(※)から、学校での保健教育が有効だと見込んでの活動開始でしたが、目指すべき学校保健の在り方が定まっていない他、教育者の不足や学校施設の未整備など、問題が山積みの状態での開始でした。
それから11年、シェアはエルメラ県での保健教育プロジェクトやエルメラ県・ディリ県での3つの学校保健プロジェクトを実施し、2019年1月、学校保健活動関連のプロジェクトを終了しました。
(※) 初等教育準就学率92.3%(2018年) 出典:『Sustainable Development Report 2020』より
シェアの学校保健活動は2007年に始まりました。2002年からエルメラ県で実施された保健推進プロジェクトの対象に小学校教師が含まれていたことがきっかけとなり、この年、政府に要請されエルメラ県の学校の一部で保健活動が開始されました。
2009年には初めて、国レベルの学校保健のワークショップを教育省と共に開催し、学校保健活動の推進に貢献しました。小学校における保健教育活動が県行政のもとで開始されているのはエルメラ県のみという状況の中、国レベルワークショップには、全13県から参加がありました。これ以降、保健省により、学校保健が優先課題の一つに位置づけられることとなりました。
エルメラ県で2007年から行われている学校での保健活動をプロジェクトとして行うこととなりました。学校保健活動を担う人材育成と能力強化を行い、県内の98%の学校で保健教育が開始されました。
県レベルトレーナー20名の新規養成と小学校校長約107名および保健担当教員約150名に毎年2回実践的な研修を行いました。県レベルトレーナーへの研修や実践活動を通して、活動改善にむけた提案や関係者との情報共有などの役割を積極的に果たせるトレーナーを増やすことが出来ました。
写真(左):教員研修の様子
写真(中):手洗いの指導
写真(右):手洗いの様子
毎年、シェアが実施してきた研修や学校モニタリングなどの活動を、今後県行政の職員が主導していけるよう、日々の活動や会議などを通じて働きかけました。また、エルメラ県で行ってきた学校保健活動をディリ県の一部の学校でも開始しました。
2県合計で、約500名の教員が学校保健現場で活躍するようになりました。エルメラ県では、県行政職員による学校保健実施計画の作成を支援しました。
2015年には直接、教育省大臣に全国での学校保健導入の必要性を訴え、シェアによる学校保健活動の実践例や教訓、経験集を全13県の学校保健関係者に配布しました。また、シェアが牽引してきた学校保健についての方針が記載された「学校保健国家戦略計画 2015-2019」も策定されました。
学校保健活動の最終フェーズとして、今後シェアの支援が無くなった後も、教育省と保健省が学校保健を牽引できる環境を整えました。ディリ県で学校保健教育活動を行いつつ、エルメラ県とディリ県での実践経験を活かし、政府と共に全国に普及できる学校保健の仕組みを構築しました。
ディリ県の全小中学校97校を対象に学校保健教育活動を行いました。保健教育活動の実践的な研修を行い、3年間で保健教育のできる教員246名を養成しました。保健の授業の副教材も6種類開発し、授業や児童保健委員会で活用されています。
本プロジェクトで目指した「全国で実施可能な学校保健運用モデル」の構築は形になり、機能しはじめています。2017年には、学習指導要領が改定され「保健」が単独科目となりました。また、教育省と保健省と共にシェアが作成した「学校保健の手引き」は、国の公式な手引きとなりました。
写真(左上):校長ワークショップ
写真(右上):国レベルのワークショップ
写真(下):教材を使った保健・栄養教育
シェアの活動は東ティモールに「学校保健」という新しい概念を導入する支援を行いました。
2007年から11年間行った学校保健教育は、エルメラ県・ディリ県の学校で保健教育を普及させただけではなく、保健教育の全国普及に向けた基盤作りに貢献しました。
目指す学校の姿や、その実現のための取り組みなど具体例を豊富に盛り込み作成した「学校保健実施手引き」は国の公式な手引きとなり、全国導入の決まった学校モニタリング用紙には保健項目を盛り込むことに成功しました。
教員対象の保健研修で使用する「研修モジュール」、東ティモール初の「学校健診実施手引き」も完成させました。学校での保健教育のためにシェアが作成した紙芝居形式やゲーム形式の教材は、すべて政府公認の教材として小中学校で活用されています。
シェアは小さいNGOでありながら、学校保健・国家戦略計画案の作成に関わるなど、国の政策づくりに貢献しています。
「保健」は依然として後回しにされがちな科目で、教育省が確保する学校保健への予算もわずかです。また、国や県の行政官のリーダーシップや、教育・保健セクターの連携もまだ十分とは言えません。
また、学校での保健教育が定着し、学校健診、菜園などの活動は普及してきている一方、水・衛生設備の改善が行われていない学校が多くあります。この様な問題に関しては、学校だけでは根本的な解決が難しく、地域との連携促進などが必要です。
希望を感じるのは、創意工夫しながら保健活動を行う学校や教員の存在です。限られた資源を活用したり、保護者や地域住民を巻き込んだりするなどし、子ども達の健康のために試行錯誤しています。シェアは、この様な模範的な学校の取り組みをワークショップ、ニュースレター、SNSなどで他校に共有しました。今後、取り組みが広がり、国や県の行政官を動かす原動力になるのを期待しています。
写真(左):教材を使った教員研修
写真(中):健診を手伝う児童
写真(右):児童による学校菜園の運営
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