母国タイに遅れた、異国(日本)でのエイズ治療
在日タイ人のエイズ治療
1990年初めのタイはHIV新規感染者が増加していた時期で、高額なHIV治療薬に手が届く人も少なく、HIV/AIDS1は「死の病気」として恐れられていました。その後、タイではHIV医療や啓発活動が進み、無料でHIV治療薬を得ることができ、偏見も改善されました。しかし、日本で暮らしていたタイ人には、2000年になってもこのような変化や正しい情報が届きにくい状況でした。
HIV/AIDSへの恐怖や偏見からエイズを発症しても病院に行かず、命に関わるような状態まで重症化してようやく病院に運ばれるようなケースもありました。
タワンの結成
そのような状況を目の当たりにしたタイ人たちの中で、「日本に住むタイ人の健康を守りたい」「HIVに感染して苦しむ人をなくしたい」という想いが強くなり、タイ人ボランティアによって2006年に『タワン』が結成されました。それから、東京とその周辺地域においてエイズを中心とした健康支援活動が始まり、8年目を迎えました。
課題解決のアプローチ
タワンは結成時より、外国人医療支援を行っているシェアのサポートを受け、協働してきました。現在は、タイ人女性5人を中心に、エイズを中心とする健康情報の提供やゲームを交えたエイズ啓発、健康・エイズ電話相談、健康相談会などをシェアと協働で行っています。活動開始から8年が経過し、タイ人コミュニティの中で様々な変化が起き、日本に住む外国人のHIVに関連する動向に変化が訪れています。
1:HIV:ヒト免疫不全ウィルス AIDS(エイズ):HIV感染により免疫機能が低下し普段なら発症しない感染症を発症した状態
8年で変わったタイ人コミュニティ
シェアの外国人向けエイズ電話相談から見える変化
通訳利用状況(日本語・英語とも不自由な外国人)2
2:エイズ拠点10病院を対象にした調査(2008〜2013)、ブラジル人集住地域病院含む。出典 研究班H26報告書
タワンが実感したタイ人コミュニティの変化
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2006年 |
2014年 |
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・タイ料理屋、ボクシングジム、タイカラオケ店、タイ式のお寺等での、配布や設置を拒否された。
・「この店にHIV感染者はいない、感染する人はいない、関係ない」と断られた。 |
・タイ料理屋などタイ人の集まる場所で、配布や設置をしてもらえるようになった。
・タイ式のお寺で平気でコンドームを配れるようになった。
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・エイズ啓発ワークショップの際に、コンドームに触りたくないと言って否定的だった。 |
・エイズについて、他の病気と同じように普通に話せるようになった。
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・エイズに対するイメージが悪い、汚い、と言われ、タワンの活動に非協力的だった。
・タイ人の子どもが保育園に入園しようとしたら、「HIV検査を受けてきてください」と言われた。
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・活動に協力的になり、会場の無料提供や若者によるコンドーム配布が行われるようになった。
・タイ人=HIV陽性者という偏見に基づく行動を示す人がいなくなった。 |
年間推定国籍別外国人HIV陽性者受信数
数字から分かる変化
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関東のエイズ拠点病院では、タイ語のほとんどは院外の医療通訳を利用しています。2000年頃と比較して多数のタイ人が優秀な医療通訳者として育成されてきているからです。
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タイ人は外国人HIV陽性者の4割を占めていましたが、大きく減少しました。減少の背景には、人身取引被害や在留資格のないタイ人の来日が減少したことも考えられますが、タワンの活動も大きな力になっています。
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エイズに限定するのではなく、今、包括的なサポートが求められている
ここ数年で、エイズに関する相談自体が減少しており、それ以上にエイズ以外の様々なジャンルの健康や医療に関する相談がたくさん寄せられています。数年~数十年前にHIV陽性が判明し治療環境もすでに整っている外国人たちが、長期療養生活を送る中で抱える生活の課題です。例えば、日本人配偶者の介護の問題、子どもの育児や就学など成長過程で抱える問題等であり、暮らしの面からHIV陽性者を支える環境づくりが求められています。また、外国人の国籍も多様化しており、幅広い相談ニーズと国籍の多様化にどう対応していくのかが今後の在日外国人支援の課題の一つです。
シェア=国際保健協力市民の会「年次報告書2014」 掲載
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