【在日外国人支援事業配信】医療通訳者フォローアップ研修を開催~精神病症状を抱える方の通訳と支援について学ぶ~
こんにちは!在日外国人支援事業を担当している山本裕子です。今年の夏は北アルプスの唐松岳に登り、周辺の山々の景色を堪能できました。みなさんもまだ行かれていない方はぜひ!
さて、先日の9月27日に、当会に登録している医療通訳者を対象にフォローアップ研修を開催しました。現在、当会に依頼が寄せられる医療通訳の分野は、主に母子保健関連となりますが、それ以外に様々な疾患に関する医療通訳の依頼も寄せられています。その中で、最近、年に1-2件ぐらい依頼があるのが、統合失調症の方の支援に関する医療通訳です。統合失調症に関する通訳依頼自体は、もっと前からあったのですが、依頼のたびに、昔から支えてくれているベテランの医療通訳者の方々に対応してもらい、このテーマの研修開催までは行えて来ませんでした。
今回シェアの念願が叶い、精神科専門で外国人の診療のご経験も豊富なダイバーシティクリニック(四谷ゆいクリニック)の白井優医師に講師を依頼することができ、研修開催に至りました。
今回は、「精神病症状を抱える方の通訳と支援方法」というテーマで講義を行っていただきました。申込みは34名(当日参加30名)と当会の医療通訳者の半数以上が申し込み、欠席者からも参加できないことを惜しむ声が聞かれるなど、開始前から医療通訳者のみなさんの興味があるテーマだったことが伺えました。当初は研修時間2時間のうち、約1時間で講義と質疑応答、そして残りの時間でグループワークを考えていましたが、当日は参加者から止むことなく質問の手が挙がったため、白井氏のご協力を得て、講義と質疑応答で2時間をほぼみっちり使って行いました。
私自身保健医療従事者なのですが、精神疾患や精神病症状の経験に乏しく、今回の研修の内容は新しい情報ばかりで、私にとっても学びの多い研修となりました。
たくさんの学びの中で、特に印象に残っている3つを紹介します。
1つは、「自我境界」についてです。自我境界とは何か、そして「自我境界」が破綻するとそれまで気になってなかった外からの音や刺激などが「自分ごと」として入ってくるようになるということを、図を交えながら説明してくださったので、とてもイメージしやすかったです。「自我境界」の理解が、精神病症状、そして統合失調症の理解をしてく上でのベースとなると認識することができました。参加者からの事後アンケートでも、学んだこととして、「自我境界」「自我障害」について書いた人が多く、「自我境界という考え方を知ることで統合失調症への理解が深まった。」という感想も聞かれました。
2つ目は、精神病症状が出て診察につながる方々は、症状によって周囲への不審感が増すことから、不眠、過労、ストレスなどを抱えている方が多く、前兆期や急性期の治療の一環としても、しっかり睡眠をとることが大切、という内容です。睡眠がとれるということは、健康を保つ上で基本となることを、今回の研修であらためて認識することができました。
印象に残っている3つ目は、患者が精神病症状の1つである「まとまりのない言動」を話し、それを医療通訳者が通訳する際には、内容の意味が理解できなくても、聞いたそのまま訳して医師に伝えることが診断の上でも重要だということです。参加した医療通訳者からは「まとまりのないコメントの通訳は、技術的にも精神的にも難しい、ということを知り収穫となった。」「知っておくことで備えることが出来るため、まとまりのない言動の具体例がもう少し欲しかった。」などの感想が聞かれるなど、重要な点であることを改めて認識する機会となったのではないかと感じています。
また、参加者数名からは、今回の研修の第二弾を開催して欲しいという声が聞かれたり、うつ病などについての研修をして欲しいという声が聞かれるなど、もっと精神疾患や精神病症状に関して学びたいという医療通訳者の想いが伝わってきました。今回は統合失調症に関連する内容を中心に話してもらったため、自殺につながる躁うつ病やうつ症状に関しては、質問に答える形でしか説明をしてもらう時間がとれなかったので、今後また学べる機会を作っていけたらと思っています。
※この活動は、令和7年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業(WAMモデル事業助成)を受けて実施しました。
東京事務所 在日外国人支援事業担当
山本 裕子