《NGO非戦ネット声明》
シェアが賛同すること
日本政府は4月5日、「同志国」の軍に防衛装備品(武器)や軍事インフラを無償供与する新しい枠組み「政府安全保障能力強化支援(Official Security Assistance: OSA)」を決定しました。昨年12月の「安保3文書」で示された「国際協力の戦略的活用」の一環で、「非軍事原則」を掲げて行われてきた日本の国際協力の一大転換です。
私たち「NGO非戦ネット」は2002年のイラク戦争に反対して結成されたNGOのネットワークです。2014年の安保法制など「戦争のできる国づくり」に対して、国際協力活動を行う市民の立場から抗議の声を挙げてきました。今回の「OSA」創設に、以下の理由から強く反対します。
(1)「非軍事原則」を放棄し、平和国家としての信頼が失われる
第二次大戦後、日本は憲法前文、憲法9条のもと平和国家としての道を歩んできました。国際協力分野では、ODA(政府開発援助)の基本方針を定めた「開発協力大綱」において「非軍事原則」を掲げ、軍事的用途や紛争助長につながる援助を禁止してきました。
OSAの創設はこの「非軍事原則」に反するものであると、多くのNGOが外務省との協議の場で訴えてきました。それに対し外務省は「OSAはODAとは全く別の支援枠組みなので、非軍事原則には縛られない」と繰り返してきました。
「ODAとは別」と強弁したところで、相手国から見ればODAもOSAも同じ日本からの援助であり、日本が武器を援助する国になるという事実は変わりません。これまで、「非軍事」で国際協力を行う日本の姿勢は世界から評価され、日本への信頼、安心感が寄せられてきました。私たち日本のNGOにとっても、それが現地での活動における支えになってきました。OSAを導入することは、その信頼をも大きく損ねることになります。日本が支援した武器が国際紛争や国内紛争で使用され、人びとが殺し殺されることになれば、私たちがまさに戦争の当事者になるのです。
(2)覇権争いに加担し、国際的な緊張をエスカレートさせる
OSAは「同志国の抑止力向上」が目的とされています。「同志国」とはどの国かについて政府は曖昧な説明に終始していますが、2023年度に対象となるフィリピン、マレーシア、バングラデシュ、フィジーの4カ国の選定からは、対中国包囲網を形成する意図が見て取れます。OSAは「国際紛争との直接の関連が想定し難い分野」(政府国会答弁)で実施するとの説明とは裏腹に、中国に対峙するための軍事支援です。現時点では、衛星通信システムや警備艇などの支援が想定されていますが、「安保3文書」に従って「防衛装備移転三原則」が緩和されれば、戦闘機や戦車など殺傷能力のある武器の支援も可能になります。
東南アジア(ASEAN諸国)はじめグローバルサウスと呼ばれる国々の多くは、アメリカと中国との覇権争いから距離を置こうとしています。アメリカと軍事同盟を結ぶ日本が、そうした国々を「同志国」と認定し自陣営に引き込もうとすることは、米中の覇権争いに相手国を巻き込み、国際的な緊張や分断を高めることにほかなりません。また、フィリピンのように軍・警察による深刻な人権侵害が報告されている国への軍事支援は、人権侵害の助長にもつながります。
私たちNGOがイラク戦争、アフガニスタン戦争、あるいはシリア戦争において紛争地での経験から学んできたのは、武力によって平和はつくれないということです。「抑止力向上」の名目で軍拡競争に加担する援助を行うのではなく、軍事力に依存せず、あらゆる国との相互理解と共存を目指す外交の展開、紛争の要因に対処する社会・経済政策などの援助の方法が探求されなければなりません。
(3)日本の防衛産業を武器購入により支援
「戦争ができる国づくり」の一環として、2014年に「防衛装備移転三原則」によって武器輸出が解禁されました。しかしその後、完成品の武器輸出はフィリピンへの1案件にとどまっています。「安保3文書」には日本の防衛産業の強化が掲げられていますが、OSA制定の狙いの一つもそこにあると考えられます。OSAの仕組みの詳細は明らかになっていませんが、これまでの外務省の説明からは、相手国が日本の防衛産業から防衛装備品(武器)を調達し、その代金を日本政府が支払う形だと想定されます。国内で防衛省・自衛隊以外に販路もなく利益率が低かった防衛装備品を、国外向けに国が税金を使って購入することになるのです。
防衛産業の基盤強化は軍拡に繋がります。また、OSAを使って再生した日本企業が生産する武器が、世界の紛争を間接的に支援することになりかねません。この目的で援助を使うことが適切であるとは到底考えられません。
(4)国会議論もなく、今後も監視の目が届かない
政府は昨年12月の「安保3文書」閣議決定に続き、今回のOSAについても国会での議論を行うことなく「国家安全保障会議」で決定しました。日本の安全保障政策、国のあり方の大転換が、国会議論を経ずに決定されています。
OSAで供与される装備品の内容を制限する「防衛装備移転三原則」の緩和が今後予定されていますが、それも閣議決定できるものであり、国会の審議は要件になっていません。
また、OSA実施方針の「実施上の原則」には、「適正性・透明性の確保」の方法として「情報公開」や「評価・モニタリング」などが明記されていますが、それがどのように担保されるのか、誰がどのように行うのかは記載されていません。支援した資機材が相手国側で目的外に転用されたり第三国移転された場合に、日本が紛争に介入したと見なされるおそれは否定できません。そのような場合、相手国が「軍事機密」を理由に情報公開を拒むことも想定され、適正性・透明性が確保できるのか疑問はぬぐえません。
私たちは、日本が国際協調主義、平和主義を基本にした国際協力を継続していくために、OSAを撤回することを求めます。また、日本政府がNGOなど市民社会と連携して、社会・経済政策を通した平和の準備のための援助を促進することを求めます。
私たち「NGO非戦ネット」は反対の声をあげ続けます。また、同様に声をあげてくださる仲間をつのり、協働できることを願っています。
非戦ネットのOSA(政府安全保障能力強化支援)への反対声明を、
NGO シェアのホームぺ―ジに掲載するにあたって
<付帯意見>
「非戦」の理念を過去の痛切な体験から学び直す
シェア理事、非戦ネット呼びかけ人
本田 徹
日本国の防衛政策や開発援助(ODA)に重大な影響・関連をもつOSA(政府安全保障能力強化支援)が4月に、国家安全保障会議(NSC)で正式に決定され、大きな波紋を生んでいます。NGO を含む日本の多くの市民社会組織は、憂慮や反対の意思を表明しており、NGOの有志で作る非戦ネットも、今回、参加組織多数の賛同で、反対意見表明をするにいたりました。
思い起こせば、2015年に安保法制への懸念から、当時シェアの代表理事だった私は、理事会の賛同もいただいて、個人の呼びかけ人として、「非戦ネット」に参加したのでした。当時私の胸中にあったのは、福島県の生んだ偉大な国際法学者・朝河貫一と彼の主要な著作「日本の禍機」でした。戦前、日本が日清日露両戦争で獲得した中国大陸や朝鮮半島での領土や鉄道利権などを、返還期限が来ても持ち続けることで、日米戦争を引き起こすリスクが非常に高くなると憂慮した朝河は、「非戦」の道義性を強く訴え、全力でこの破滅的な戦争を予防するための政策提言を、日米両政府に対して行いますが、奮闘むなしく1941年12月の日米開戦にいたります。この戦争を通して日本がアジア諸国に及ぼした巨大な惨害や、日本国土の破壊や多くの人命の損失などは、歴史的な事実として記憶に新しいことです。
今回のOSA に対する「非戦ネット」の4項目の声明は、大筋において妥当なものですが、一方で、この声明文では直接の対象となっていない「中国問題」にも、私は懸念をもちました。
中国国内の人権問題が、香港でも、ウイグル自治区でも、チベットでも非常に深刻で、そのことが、周辺国の警戒を招き、米国の過剰な反応を招いている面もあり、中国に国内市民社会の人権や民主主義を守ってほしいくらいは、非戦ネットの声明文で言及してもよいのでは、というのが私の意見でした。
今回7月初めに開かれたシェアの理事会でもこの件が討議され、多くの理事からは声明文への賛意が表明され、ホームページ上で非戦ネットの声明を掲載することが認められました。一部の理事からは、シェアは保健医療のNGO なのだから、政治的な意見表明には慎重であるべき、との意見もありましたが、大筋でこの方針が承認されました。
私は、市民社会組織(Civil Society Organizations)は世界的な連帯の運動であり、中国でも育ちつつあるNGO や少数民族の民主化要求を中国政府が傾聴してくれることが、国際社会で中国が大国としての尊敬を集めるためにも大切なことと思っています。最近とくに心を痛めている、いわゆる人権派弁護士・社会運動家に対する弾圧はやめるべきであり、これは社会体制や政治制度の違いを越えて、中国も常任理事国となっている国連の、1948年の世界人権宣言に照らしても順守すべきことと考えます。
以上、雑駁となりましたが、非戦ネットの声明文をシェアのホームページに掲載させていただくにあたり、呼びかけ人の一人としての付帯意見を述べさせていただきました。
シェアをご支援くださっている皆さまに、日ごろのご厚志を感謝申し上げるとともに、「非戦」についてのご理解を賜るようにお願い申し上げます。
2023年7月
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。