出産後は水浴びをしてはダメ!?今なお続く伝統的な習慣について
日本の皆さん、こんにちは。東ティモールは今は乾期で、夜になると寒いくらいです。日本は暑い毎日だそうですね。お身体に気を付けてお過ごし下さい。
さて、私の名前はネルソン・トメといいます。今回は初めて私一人でブログを書いています。どうぞ感想をお寄せください。今回は、私の出身地アタウロ島の習慣、文化をご紹介します。
シェアスタッフのネルソン(赤ちゃんを触っている男性)。今年の10月で勤続1年になります。
私はアタウロ島の出身です。アタウロにはこの地にしかない文化が途切れることなく現在まで残っています。アタウロの5つの村には、それぞれ独自の文化があり、それによって、「お、この人はあそこの村の出身だな」と分かることもあります。この話をしたとき、ディリのスタッフは驚いていました。同じ国の中でも住んでいる県や村によって習慣が異なることは、日本にもありますか?
私の出身地、アタウロ島
日本の皆さんは毎日お風呂に入っていると聞きました。東ティモールでは湯船に浸かる習慣は無く、手桶で体に冷水(常温の水)をかける「水浴び」が一般的です。アタウロには「出産後の母親は40日間水浴びをしてはいけない」という伝統的な習慣があります。その理由はなんでしょうか?水浴びをすると病気に感染し、炎症が起こるという言い伝えがあるためです。産後、水浴びをしないお母さんたちは、40日間のあいだ、顔のみを水で洗うか、もしくは濡れたタオルで全身を拭きます。
この言い伝えは先祖代々に伝わり、現在でも頑なにこの習慣に従うお母さんたちがいます。きれいな水が手に入りづらく、医療施設も無かった昔の状況を想像したり、産後の弱った体に冷たい水をかけて体温や血圧が急に低下することを考えたりすると、こうした習慣は一部で合理的にも感じられますが、現在では、産後の悪露(おろ)を洗い流し、体を衛生に保つという知識も必要です。
しかし、2016年頃から、この習慣に従わない母親も見られるようになりました。当時私はインドネシアのクパンで看護師になる大学に通っていたため、実際の変化の兆しを目の当たりにしていた訳ではありませんが、アタウロ出身の友人が当時のことを回想してくれました。
習慣に従わなくなったのは、アタウロ島でもインターネットが普及し、スマートフォンを持つ人々が登場し始めたからだそうです。特に、保健省による健康促進の映像や情報に、ネットからアクセスできるようになったのが大きいです。また、東ティモールには現在多くのNGOが支援に入っており、NGOスタッフや保健ボランティアを通して母子保健に関する情報提供が行われています。私の親族も、保健ボランティアから出産に関する情報を得ることができ、2016年以降、水浴び禁止に従っている人はいなくなりました。
住民に対し健康教育を行う保健ボランティア(左側 白い帽子)
インターネットの普及やNGOの活動によって、出産後の40日間の水浴び禁止の習慣は薄れてきたと私は感じています。一方、アタウロの5つの村のうちマカダデという村では、まだこの習慣が根強く残っています。マカダデ村はアタウロの中でも伝統を重んじる人が多いことで有名で、他の地域からは「保守的」や「頭が固い」と否定的に捉えられることもあります。私はベロイ村の出身ですが、マカダデ村出身者と伝統文化や習慣について話すとき、少し物怖じしてしまうこともあります…。
正直なことを言うと、この習慣を現在も続けている人々を見ると私は心配していまいます。私が看護師ということもあるかもしれませんが、出産後40日間も水浴びをしないのは、彼女たち自身の衛生面に悪い影響を起こしかねません。感染症を防ぐためにも、清潔さを保ち、健康でいて欲しいと願っています。 もちろん、何のために水浴びが必要かを理解し、衛生観念や感染症の知識を持ってもらうことで、極端な習慣を見直し、お母さんたち自らが健康の意思決定をしていくことが重要だと思っています。
移動診療での子どもの健診
出産後のお母さんと話す保健センター看護師
今回は水浴びを40日間してはいけない、という習慣をお伝えしましたが、他にも様々な言い伝えが存在します。例えば、妊娠中に卵やパイナップルを食べると流産をするため食べてはいけない、出産中に子宮が先に出てしまうので妊娠中はバナナの花を食べてはいけない、妊娠中にエビを食べると生まれて来る子どもはいつも口が開いたままになってしまうなど、興味深い迷信が残ります。伝統文化や習慣を継承していくことも大切ですが、人々の健康を害するような習慣は、無くすべきとまではいいませんが、口頭で伝えていくのみにするとか、できるところのみ従う、などの工夫が必要ではないでしょうか。
医療者による自宅訪問(出産後健診)
正しい知識を得てもらうには、医療者や保健ボランティアなど、知識を持っている人からの健康教育が重要だと考えます。正しい知識を母親や住民に伝えていくため、村長や集落長、そして村にいる教会関係者の方々との協力関係を築くことも必要です。私たち医療者が一人で住民を集めるのはとても大変なことです。まずは村長などに、母親に伝える情報の大切さを理解してもらい、教会関係者の方には、これまでに情報提供を行われてきたノウハウを教えてもらいたいと思っています。
生まれたばかりの赤ちゃん
※この事業は、皆さまからのご寄付と、外務省日本NGO連携無償資金協力や民間助成金の資金をいただいて実施しています。シェアは20年にわたり、東ティモールで保健ボランティアの育成や保健教育の普及などに取り組んできました。新型コロナを含んだ感染症の予防対策や、現地の人々の健康で平和な暮らしのためには、継続した活動が必要です。皆さまからの温かいご支援に感謝いたします。
文責:シェア東ティモール事務所 ネルソン・トメ(ヘルスオフィサー・看護師)
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。