栄養調査を実施してみて ~平面が立体になるとき~
こんにちは。カンボジア事務所の溝口です。
過去のブログでベースライン調査を実施し、プロジェクト介入前の子どもの栄養状態や、養育者の皆さんの栄養行動や子どものケアに関する知識について知ることができたことをご紹介しました。
「朝ごはんは白米に焼いたカエル。昼は白米にオンバルマテッ(唐辛子や塩・砂糖を入れて作る調味料)、夜も昼とおなじ。」
直近24時間に食べたものを聞き取りを続けていくと、全体的にあまり食べていないなという感覚を持ちます。これは2021年にフェーズ1プロジェクトのエンドライン調査をしたときにも感じた点です。しかし、調査で使用する24時間思い出し法は、食べた食品群の種類を聞くことにフォーカスされており、「量」を聞くことには限界があります。何とかして、子どもたちが食べている普段の食事量をもう少し理解出来たらな…というのがカンボジア事業の願いでもありました。
そうした中、2月に栄養専門家である木下ゆりさん(東北生活文化大学短期大学部)が2週間カンボジアに滞在され、より細かな食事調査を実施してくださることになりました。木下さんには2019年にプレアビヒア州版の離乳食レシピ本の作成をサポートいただきました。
木下さんの繋がりで、管理栄養士である青野真奈美さん、氏家真梨さんもボランティアという形で現地での調査に加わってくださり、同じく管理栄養士である堀江早喜さんも日本からこの栄養調査を全面サポートしてくださいました。こうしてカンボジア事業を全面からサポートしてくださる栄養士チームができあがっていきました。
調査の方法は「対象児の家庭に写真撮影ができるタブレットを渡し、3日間の食前・食中・食後の記録を取ってもらう」という私たちにとって初めての試みでした。
"タブレットを紛失してしまわないだろうか”、”毎食の写真を撮ってもらえるのだろうか"、"写真に加えて、食べたものを書きとってほしいが、どの位の人が字を書けるのだろう" 正直なところ、疑問と不安が止まりませんでした。それでも現地代表のモーガンやプロジェクトスタッフが、ベースライン調査で栄養状態がよくなかった子どもたちの中から今回の調査対象者を選出し、アドミニの方では事務所内で保管しているタブレット類をはじめとした機器の整理(充電機器の購入や、追跡機能の追加等)を行ないました。
栄養チーム渡航前にはカンボジア事務所スタッフ全員とオンラインで事前の打ち合わせを実施しました。実際に栄養士の皆さんが家庭で試した食事記録を見たり(調査の補佐を務めるナショナルスタッフたちは、日本に住む子どもたちが食べる食事に興味津々!)、実際に土日に自分たちが家庭で試した食事記録を披露し、これから行なう調査の雰囲気を掴むところから始めました。
ナショナルスタッフは自分たちが実際の調査内容を試したことで、より一層調査に対するイメージが沸いたようでした。
自分たちで試してみてカンボジアで調査する場合における改善点が見えてきました。例えば、
①タブレットは家庭に配布後、毎日シェアスタッフが確認にいくこと
②食事記録フォーマットのリバイズ:村の人々が理解しやすい・書きやすいフォーマットを作成
③栄養士チームが渡航する前に最初の10家庭におけるタブレットとデータ回収を済ませ、写真・食事記録を整理・翻訳しておくこと
栄養士チームの皆さんもこうした調査の進め方の大部分を、ナショナルスタッフに快く任せてくださりました。最終的には、この時期に進めていた保健センター向け研修と同時進行で、配布・確認・回収を進めていくことができました。
栄養士チームがカンボジアへ到着されてからは、再度家庭を訪問して聞き取り調査を実施しました。事前に収集した写真や食事記録を見ながら、食事量を聞き取っていきます。袋菓子や乳製品などの加工食品は、パッケージの栄養成分表を記録してもらうことで、あとから栄養計算ができるようにしました。
1回の食事で子どもがたべる白米の量を計量
袋菓子をたくさん食べる子どもがいたり、村では”ミルク”と呼ばれている1本125mlのジュースを1日に6本も飲む子どもがいることがわかりました。こうした子どもたち1日に摂取するカロリーの大部分をお菓子だけで賄っていて、月齢に応じたカルシウム摂取量なども全く満たしていませんでした。
その一方で、お菓子を食べると子どもの具合が悪くなるので与えていない家庭が複数件あったり、子どものおやつとして手づかみでコオロギを捕まえているお母さんがいる家庭があることも分かりました。
ベースライン調査時は母乳栄養のみで、栄養状態が低くなっていた子どもが、お母さんの手作り離乳食を食べ始めてから栄養状態がよくなっている例もありました。
今回の栄養調査は、ベースライン調査で聞き取りをしていた紙面だけの食事風景が急に立体的に捉えられるようになった瞬間でもありました。栄養士チームに皆さんは課題だけに注目するのではなく、各家庭でのグッドプラクティスに注目して、聞き取りを行なってくださいました。食事や、想像を上回る数の食事中の写真を撮影し、プロジェクトや調査に快く協力してくださったこと家庭を一つひとつ回りながら、いかに村の子どもたちが家族や栄養改善プロジェクトに携わるスタッフに大切にされているか、「愛だよね」と言われていた木下さんの言葉が印象に残っています。滞在中に何度もナショナルスタッフが整えるロジや、アシストを褒めてくださり、スタッフ全員がポジティブな気持ちのよい状態で活動に取り組むことができました。木下さんをはじめ、青野さん、氏家さん、堀江さん、栄養士チームには改めて感謝いたします。ありがとうございました。
「写真を撮るという方法がうまくいかなかったら、泊まり込みで家庭訪問をさせてもらうことも考えます。10例という少ない数でも貴重なデータになるのでやってみましょう」と心強いお言葉がありつつ始まった今回の調査。最終的には40家庭にアクセスができ、38家庭での聞き取り調査をすることができました。
栄養士チームの皆さんには引き続き日本から栄養分析をしていただきつつ、現地ではそれまで続けていた保健ボランティアさんへの研修に再度取り掛かっています。日中の体感温度が40度を超える中で駆け抜けた2週間を改めて振り返ると、多くの人の想いが混ざり合って成し遂げられた活動であったと感じます。
駐在員溝口が書く事業部ブログは今回が最終回となります。約5年に渡って様々なことを書いてきました。できるもので、できることをする。毎日太陽が昇っては沈みながら、その積み重ねが続いている村の生活やシェアの活動が少しでも伝わるようにと思いながら、楽しく書かせていただきました。
最後になりますが、溝口の帰国報告会が4月4日(木)19:15~開催されます。こちらもぜひよろしくお願いいたします。
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▶~令和時代のNGO駐在員があゆんだ「ひと×キャリア in カンボジア」~
東京事務所カンボジア事業担当
溝口紗季子
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。