僻地の診療所で孤軍奮闘する1人の助産師とシェアの医療従事者サポート
日本の皆さん、こんにちは!アタウロ島でヘルス・オフィサーとして働いているネルソンです。サッカーアジア杯、お疲れ様でした。イランに敗れてしまい残念でしたね…。でも、日本サッカーの未来に期待しています!!
さて、今月のブログでは、アタウロ島の僻地で頑張る助産師を紹介します!
アタウロ島地図 ベロイ村は大きく、診療所(地図上のHP)が二つあります。
アダラ診療所はアタウロ島ベロイ村の北に位置しています。アタウロは5村から成る島ですが、ベロイ村はその中でも一番大きな村で、他の4村すべてが接しています。アダラ診療所には3つの集落(Arlo、AtekruとMaquer)の住民が診療にやってきます。通常、診療所には4名(医師、助産師、看護師、公衆衛生士)が配属されますが、アダラ診療所には助産師と看護師1名ずつしかいません。アタウロ島には医療従事者が不足しているのです。
レアンドラさんは、私(ネルソン)より3つ上の31歳。ベロイ村Maquer集落出身です。2021年3月、「健康家族(Saude Na Familia=SnF)」プログラムの有期契約雇用でアダラ診療所勤務となったそうです。当時を振り返ってレアンドラさんが話し始めてくれました。
「アダラ診療所勤務になる前、アタウロ島の保健センターで2週間の準備期間がありました。保健センターでは、妊婦健診とか分娩介助の手伝いをして、特に何の説明もなく、診療所に行く事になりました。」
「不安だったか?と言われれば、そうかもしれません。でもその状況について“Simu deit=受け入れるだけ”でした。」
※日本人スタッフ深堀注釈)東ティモール人の多くが、このように“Simu deit(シム デイト)”と言い、絶対不安やろ(ツッコミ)!という場面でも、妙に堂々としている事が多々あるのです。神様がついているから大丈夫、と彼らは言うのですが、すごい精神だわ…といつも感心します。
「ベロイ村出身の私がアダラ診療所に着任した時、集落長や住民がとても喜んでくれたのを覚えています。これまで勤務していた医療者の人たちはAdara出身の人ではなくて、すぐにいなくなってしまうんじゃないかと不安だったみたいです。私はとにかく自分にできることをやろうと一生懸命でした。」
ソーラーパネルのライト(左が表で右が裏)。アダラ集落には電気も電波もない。夜の分娩にはこのライトを使って介助する。
「雇用契約されたSnFプログラムの内容は、私たち医療従事者が家庭訪問し、子どもの体重測定、予防接種、妊婦健診、一般診療等を行って住民の健康状態を把握することを目標としています。移動診療を実施しても、結局家から遠い人は診療に来ません。なので、医療従事者である私たちが住民に近づく必要がありました。診療所の業務は、SnFだけじゃなく、それぞれの医療従事者が職種に応じたサービス提供もします。助産師は助産師、看護師は看護師のように。私は助産師だから、妊婦健診、分娩介助、産後健診、予防接種、諸々の記録を行っていました。看護師の彼女は一般診療だけ行っていました。」
「当時は自信がなくて、診療所では一切予防接種をやりませんでした。電気も無いからワクチンの保管もできないし、記録の取り方も教えられていない。どうやって計画を立てればいいのか、何のための接種か、いつまでに接種が必要か?大学で学んだけれども、実践がわかりませんでした。プログラム実施の際に保健センターからワクチンが運ばれて、保健センターから来る助産師さんが予防接種を行うのを見ているだけでした。」
「最初の分娩介助は今でも忘れられません。これまで妊婦健診に来たことが無い妊婦さんで、出産予定日を2週間過ぎていました。ソーラーパネルを使って介助しました。家族にも手伝ってもらって。すごく怖かったのは、生まれてきた赤ちゃんが泣かなかったこと。きれいな布で顔を拭いて…その間ご家族に見られていたときが一番怖かった…。お願いだから泣いて!と思っていました。子どもが泣いたときは本当に安心しました。」
シェアが現在実施している母子保健サービス活性化事業では、医療従事者の知識と技術をあげる活動を行っています。その中で、国立保健研究所に研修依頼を行い、医師・助産師に対して「分娩介助研修」を実施してもらいました。受講した医療従事者が、勤務地で正しく介助できるようになることが目標です。研修後も、知識と技術が継続されるように、パルトグラムの記載を確認、サポートしています。以前シェアで実施していたプライマリヘルスケア事業では予防接種研修を実施しました。
「シェアの研修には2つ参加させてもらいました。予防接種と分娩介助研修です。今は、自分でワクチンを保健センターに取りに行きます。薬剤が何人分必要かの計画を立てて。接種して欲しい子たちには事前に連絡します。そこで協力してもらうのが、村にいる保健ボランティアさん、そして集落長。まずは集落長にお願いして教会でアナウンスをしてもらうんです。保健ボランティアさんには、一緒にワクチンを取りに行ってもらって、また、接種日には同行してもらいます」
「シェアには本当に感謝しています。研修のあと、研修で学んだプロセス一つ一つを確認しながら介助できるようになったし、研修を受ける前の介助は、やっぱり怖かったです。だから、1年間の間に2件しか介助しませんでした。保健センターまで行って出産してね、と妊婦さんに伝えていたんです。今は違います。電気がなくても、電波がなくても、自分のすべきことが何かわかっていればどんな状況であっても何でもできます。」
2023年12月、保健省から有期契約雇用されていた医療従事者の任期が満了となり、レアンドラさんはアダラ診療所を去らねばならなくなりました。契約は延長にならず、保健省から応募がかかった際、電波がないために情報を得られず、履歴書を提出することが叶いませんでした。私はレアンドラさんのその後が知りたくて、会いに行きました。
「契約が延長されなくっても、無償ボランティアとして残るつもりでした。保健センター長から、何かあったときにボランティアの立場である君の責任を保健センターが取ることはできないと言われ、診療所の鍵を返納することを決めたんです」
現在はアダラから保健センターのあるVila(ビラ)村に滞在して、雇用の情報を得るのを待っているそう…。
「私は必ずアダラ診療所に戻ります!待ってくれている人がたくさんいますからね!」と話してくれたレアンドラさん。研修のあと、レアンドラさんの成長は目覚ましく、私も同じ医療従事者として彼女をとても尊敬しています(ネルソンは看護師)。研修のあと、予防接種、妊婦健診、そして分娩を診療所で!という案内を、いろんな人に声をかけ、そして、実現させていました。シェアのスタッフとして、彼女の行動力に誇りを感じています
レアンドラさんが無事にアダラ診療所に戻ることができますように!!
ネルソン・トメ(Nelson)
ヘルスオフィサー(看護師)
シェアは、いのちを守る人を育てる活動として、保健医療支援活動を現在
東ティモール・カンボジア・日本の3カ国で展開しています。