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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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[マイノリティと健康vol.10 ] マイノリティと健康 -質の高い生活を目指して-

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マイノリティと健康 -質の高い生活を目指して-

恵まれている日本の医療体制
今、ちょうど風邪で寝ていて、訪問看護師による点滴が終わったところです。しばらく微熱が続いているので、午前中には訪問クリニックから訪問医とレントゲン医師がやってきて、検査のための採血もしていきました。
私は電動車いすを利用する障害者で、普段は一般の人に交じって待合室で待たされながら医師の診断を受けてきました。しかし、2008年にポリオ後遺症による呼吸器障害で緊急入院をし状況が変わりました。退院時には、24時間呼吸器装着という事態になっていて、そのため事前に病院の地域ケア担当者のもとに、私が帰る八王子市の保健所、訪問クリニック、自立生活センター、訪問看護ステーションのスタッフが集められ、退院後の介助案が練られました。
実際自宅で生活しているうちに夜間のみの呼吸器使用となり、現在は呼吸器のリース契約を結んでいる訪問クリニックと、呼吸器のじゃばら管を交換しにくる訪問看護ステーションとのつながりがまだ続いています。それがために、発熱などの事態が起こった時に、家から一歩も出なくとも、丁寧な治療が受けられる体制の恩恵に浴しています。
途上国の車いすの友人たちのことを思った時、生き残ってきた障害者の人たちは体力も気力もあるのですが、受けられる治療のレベルは限られていると感じます。すでにポストポリオ(ポリオ後遺症)の側弯(そくわん)がひどく、彼の今のエネルギーはいつまで続くのかと心配になる友人がいます。逆に軽度な側弯であるにも関わらず、医師が実験のために勧めたとしか思えないような、背骨にメタルを埋め込む手術を受けたタイの友人も何人かいます。親の知識がなかったばかりに、目の病気の治療のために祈祷師のところに連れていかれ、もらってきた塗り薬で目に炎症を起こして視覚障害になったネパールの女性もいました。


恵まれているがゆえの問題点
肺炎から呼吸ができなくなり病院に搬送されて、そのまま挿管され、ICU(集中治療室)で18日間もすごしました。癒着を回避するぎりぎりの期間でした。なんでこんなに長くICUに入っていたかというと、病院は気管切開による呼吸器使用一辺倒で、ポストポリオに関して勉強し鼻マスクだけで十分であると確信し、喉に穴をあけ会話ができなくなることを回避したかった家族や当人の思いとは正反対でした。鼻マスクは当時都内二か所の病院でのみ実施され、両病院ともベッドが満員で、できるだけ早く管を抜かなければならない私の状況には無理でした。結局八方手を尽くして、北海道の八雲にある病院までストレッチャーに乗ったまま転院しました。到着後すぐに行った抜管は成功し、希望にあふれた私は、結構食欲も旺盛で、このまますぐに元気になる気がしました。
地域生活の地盤づくりのために雪に閉ざされる前に都立の病院に再度転院しました。病院は多くの地方からも患者の来る評判の高いところでしたが、私にとっては窮屈なところでした。せっかく視界を遮らないよう加工してもらった鼻マスクは没収され、純正品の使用を強制されました。それがために鼻に褥瘡ができ、今でも傷跡は鮮明です。純正品を使用しなかった場合病院は今後の治療から手を引くという書面に、退院の際にはサインもさせられました。介助者を病室にいれたいという申し出がやっと許可されるとすべて介助者任せとなり、入院後一週間を過ぎてやっと体を拭いてもらえました。
途上国の病院に行くと、家族は泊まり込んでいて、廊下にコンロを出してきて自分たちの食事を作ったり、かなりにぎやかです。患者の治癒力を増すような雰囲気です。このような状況は衛生面の問題もあるかもしれないし、家族の負担も多いかもしれません。しかし管理規則が優先されると、自分は何もできない患者のような気分で落ち込みます。


ピア(仲間)の重要性
障害者は病人ではありません。ただし障害のない人にくらべて、医療のニーズは多いかもしれません。いい医師やスタッフに出会うことにより、生活の質が大いに向上することもあります。でも医療だけでは、生活の質の向上に資することはできません。
わたしは、自立生活センターに属しています。そこにはピアカウンセラーがいて、私の場合には、生活上で新たな問題に直面したときに知恵をかしてもらいます。都内で新しい場所に出かけるときには、どこで乗り換え、どの駅を使ったら一番便利なのか、電動車いすでよく外出する友人に教えを乞います。レストランに関しても、車いすのグループでは入れるところはどこか、お互いに情報交換しなければなかなかわかりません。


おわりに
自分の生活を中心に、どうやったら健康で幸せな生活な暮らしを送れるようになってきたか、この文章を書きながら考えてみました。よりよい医療体制や介助制度は重要です。それは障害者の権利条約でいわれる健康や自立生活の権利です。それらの権利が守られていて、初めて普通の生活がおくれます。
さらに充足された生活を願うなら、やっぱりもらうことより提供すること、面倒くさがるより積極的に行動すること、そして、周りにいろんなバックグラウンドをもった人が存在することがあるのではないでしょうか。労力は提供できなくても、機会や場を提供して、いろいろな人を相手に「おせっかい」レベルに達するまでやってみるのもいいかと思っています。


2016年1月31日

nakanishi.jpg中西由起子(なかにしゆきこ)
聖心女子大学卒業、国際障害者年日本推進協議会や国連ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)などを経て、現在アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表。立教大学、東大(国際保健)、放送大学の講師。DPI日本会議副代表。最近はアジアのみでなく、アフリカの障害者問題のプロジェクトも手掛けている。

DVD:第29回日本国際保健医療学会 東日本地方会「マイノリティと健康 いのちの格差をどう縮めていくか」

dvd.jpg2014年5月24日に国立国際医療研究センター(東京)で行われた、第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康 -いのちの格差をどう縮めていくか-」の記録DVDです。6枚組みでの販売です。

<1巻>
Disc.1:開会式、基調講演、全体会
Disc.2:ホームレス
<2巻>
Disc.3:難民
Disc.4:在日外国人
<3巻>
Disc.5:HIV/AIDSとセクシャルマイノリティ
Disc.6:発達障害者

価格(税込): 4,320 円

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