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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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[マイノリティと健康vol.7] 発達障害の生き辛さに関するジレンマ...重層構造の悪循環

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発達障害の生き辛さに関するジレンマ...重層構造の悪循環

「通常より倍の時間をかけて努力をしても、成果は三分の一」
発達障害当事者の生き辛さをシンプルに表した言葉です。
だからこそ頑張れない。
頑張れない自分が好きになれない。
そんな自分を責めてしまう。
このサイクルが回り始めてしまうと、厄介です。
自己肯定感は徐々にやせ細り、その代わりに自己否定感が肥大化していくわけですから。
生き辛さが二次障害になるまえに、心の傷が後遺症を伴う前に、手を打たないといけない...
この考えは恐らく教育、医療、福祉の共通認識と思います。
が、そこから先になかなか進めないのが現状です。
その原因を明らかにし、具体的な問題提起を拡散することが私の役割ではないか?
と思う次第であります。

私は常々、発達障害の問題のほとんどは発達「機会喪失」障害である、と公言してきました。
全国42都道府県を回り、ワークショップや講演会、研修を合計900回以上開催している私ですが(2015年5月現在)自分で自分を成長させる機会があり、その機会を活かして色々な経験を積み重ねているけど、生き辛さが深い...
という当事者はほとんどいません。
そして機会喪失の原因は日本社会のインフラの脆弱さにあります。
では、インフラの脆弱さの原因は?
試すという価値観を日本社会が追求してこなかったツケだと、私は考えています。
普通という価値観を日本社会が大切にしすぎてきたツケだと、私は考えています。

現在、私がイイトコサガシ・ワークショップで創ろうとしている目標は「自分らしい(個性)コミュニケーションを色々な形で試行錯誤していく」なのですが、そこにブレーキをかけているのが、普通という名のモノサシです。
自分らしさ(個性)は普通という名のモノサシをクリアした人間のみが、取り組んでよいもの...という暗黙の了解が多くの人の成長を阻害しています。
イイトコサガシでは普通という名のモノサシに抗うべく、ワークショップでしつこいくらいに「ここは成功・失敗、上手い・下手、できる・できない、他人との比較をする場ではありません。イイトコサガシは試した時点で大成功です!」と繰り返しています。
更に批判・助言がナシであり、必ず皆から褒められるワークショップであるというセーフティネットを用意しています。

しかし、それでも参加できる人は一部であり、多くの生き辛さを抱えた当事者はなかなか参加できていません。
最初は当事者だけの問題かと思っていました。
それが違うんです、違うんです。
支援者研修でも親の会でも多くの人が参加できません、参加しません。
ワークショップの中で試すという意思表示ができません。
立候補のための挙手を皆さん、ためらいます。
要するに試せないんです。
試した時点で大成功! という設定でも。
他人の前で恥ずかしい姿を見せたくないんです。
それならば試さないほうがよい...となるわけです。

この問題の本質は何でしょう?
最近、とある高校の授業でワークショップをさせていただいた際、
「冠地さん、今の生徒は100%答えが間違っていない...という確信がなければ挙手はしませんよ」
と担当の先生に言われたのですが、私はこの言葉にこそ、ヒントがあると思っています。
自分らしさ(個性)にわかりやすい答えってありますか?
私はないと思います。
色々な人とコミュニケーションを取る中で答えってひとつですか?
私は人の数だけあると思います。
上記の問いに対する答えを得るために、必要なのは勉強ですか? 
それとも試行錯誤することですか?
あくまで私の活動してきた経験の中での分析ですが(客観性は不明です)多くの人は、勉強を選んでいます。
普通という名のモノサシを勉強することのほうが、試す価値観よりも重要なのでしょう。
物凄く嫌な言い方をするなら、勉強さえしていれば試さない自分が許される...と考えているように見えます。
でも...やってみなきゃわからないことって、たくさんありますよね?
知っているだけじゃ意味のないことって、たくさんありますよね?
経験の少なさって勉強でカバーできるものじゃないですよね?
上記を理屈ではなく、大人たちが子供たちに自分の生き様として伝え続けるのがベターと私は思うのですが、ことはそんなに簡単ではありません。
なぜならば...今の大人たちが子供時代、そういう風に育ててもらっていないからです。
自分がしてもらっていないことをできるわけがない、ということです。

ではなぜ、試すという価値観を日本社会がここまで放置しておいたのでしょう?
それは試すという価値観は不確定要素が多く、取り扱いがとても難しいからです。
良くも悪くも色々な相乗効果、化学反応を起こします。
問題は悪い形でそれが出てしまった場合、誰が責任を取るのか?
誰も責任を取りたくないんです。
だからこそ、今の今まで先送りされてきたのです。
しかし、日本社会全体で試すという価値観と正面から向き合わない限り、生き辛さの本質は変わらないのです。
試すという価値観を自己責任にしてしまっている限り、生き辛さの悪循環を止められないのです。


2015年5月26日

kanchi.jpg冠地 情(かんち・じょう)
コミュニケーション・コミュニティ・イイトコサガシ(代表)
WEBサイト:http://iitokosagashi.jimdo.com/
ワークショップ・ファシリテーター、ワークショップ・デザイナー、講演講師&研修講師、コラムニスト
1972年生まれ。不登校・ひきこもり・いじめ・発達障害の四冠王だったと語る、イイトコサガシの代表。全国各地でいいところを探し、互いにほめるワークショップ(70種類以上)を42都道府県で900回以上開催。これまでに9000人以上が参加。NHK ハートネットTV にも出演。
※2015年5/24(日)19時のバリバラ(Eテレ)に出演決定!

DVD:第29回日本国際保健医療学会 東日本地方会「マイノリティと健康 いのちの格差をどう縮めていくか」

dvd.jpg2014年5月24日に国立国際医療研究センター(東京)で行われた、第29回日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康 -いのちの格差をどう縮めていくか-」の記録DVDです。6枚組みでの販売です。

<1巻>
Disc.1:開会式、基調講演、全体会
Disc.2:ホームレス
<2巻>
Disc.3:難民
Disc.4:在日外国人
<3巻>
Disc.5:HIV/AIDSとセクシャルマイノリティ
Disc.6:発達障害者

価格(税込): 4,320 円

購入: オンラインショップ

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