在日外国人と健康
インフォグラフィックと、健康を守る4つのポイント

日本の経済成長を支える外国人

日本には、191カ国、207万人の外国人が生活しています。この外国人が日本の経済を支えてきたことは意外と認識されていません。
1990年代、日本経済を支えていた自動車や機械などの輸出産業がアジアなどの海外に続々と工場を移転させていきました。オートメーション化が進んだ結果、賃金の安いアジアでも生産が可能となりより製造コストの安い海外に工場が移転していったのです。そんな中で日本の中にも工場を残すために人件費を抑えるために重宝されたのが日系人などの外国人労働者でした。多くが人材派遣会社を経由して間接的に雇われているため、職場の移動が多かったり、健康保険を提供されていなかったりといった問題がありました。また雇用は景気に左右されることが多く、2008年のリーマンショックの時には真っ先に解雇の対象となりました。
他にも、町工場などで働く技能実習生(以前の呼称は研修生)も安価な労働力として日本での工場を維持したい中小企業などからの要請で維持されている制度です(*1)。

*年表にカーソルをあわせると、各県の外国人の人口の増減(前年度比較)を確認できます。

*1955年〜1995年(国勢調査)と、2000年〜2013年(法務省)では参照データが異なる。そのため2000年は前年比較を行っていない。2005年は県別のデータがないため前年度比較を行っていない。2006年は2004年のデータと比較。1955年〜1995年は、5年前のデータと比較。

在日外国人の命の格差

出身国より高めの賃金で働いているから良いのでは?という見方もあるかもしれません。しかし、彼らの生活はひとたび病気をすると深刻な事態となります。言葉がわからなかったり日本の医療の情報がないために病院に行くのが遅れて重症化しやすいのです。
厚生労働省の調査によると、在日外国人は日本人より死亡するリスクが高いという結果が出ています。特に女性の年齢調整死亡率は日本人より1.3倍高い値です。乳幼児だけを比較してみると、全体的に死亡率は少なくなっているものの、格差自体は縮まっていません。
なぜ女性の方が格差が大きくなっているのかまだ明確な理由はわかっていませんが、男性の場合は就労によってビザが出ている人の割合が高く、言葉を学習したり社会とつながる場が多いのに対して、女性は日本人の配偶者として滞在する人の割合が高く、日本語を覚えたり社会サービスの情報を得ることに困難がある人が多いという背景があるのかもしれません。
私たちに寄せられる医療相談の中には、「赤ちゃんの下痢が続いているが、言葉が通じないのでお母さんに対処を説明できないでいる。母子共に病院に来なくなってしまい心配」という病院からの相談や、パートナーに繰り返し中絶を求められることに疑問を感じているのに、言葉が分からないために自分の考えを医師に訴えられずにいるという相談もありました。
女性のエンパワーメントが健康作りの鍵になるということは日本の中でも起きている現実なのかもしれません。男性の方が格差が少ないように見えますが、そもそも仕事ができない病状になると在留資格が延長できない立場の人が多く、男性の場合は死亡する前に帰国する人が多いという理由で死亡率が統計上低く出ている可能性もあります。高度な医療技術があっても、医療にアクセスする環境が整わずにそれを享受できない人がいる。これは、在日外国人に限らず、日本で暮らす様々な立場の少数者にも共通した課題でもあります。

健康サポートの鍵は同国人コミュニティ

外国人が抱える健康課題にたいして有力なサポートのひとつがコミュニティです。同国人同士で助け合うことで、孤立を防ぎ課題の解決につなげていきます。例えば、日本に約4万人が生活するタイ人のコミュニティには、タイ人の女性たちが立ち上げた、タイ人の健康を守るグループ「タワン」があります。メンバーはタイ語の先生、NGOや自治体の通訳や相談員などの仕事をしながらボランティアで関わり、医療に関するタイ語の電話相談や無料健康相談会、健康に関する啓発活動を行っています。東京近郊が中心ですが、タイ大使館が行う移動大使館の際に同行して各県をまわることもあります。医療電話相談では1人のケースにつき、平均3.5回電話対応(シェア年次報告書2013)するなど密なサポートが行われています。
しかし、すべての外国人コミュニティにこのようなサポート体制があるわけでありません。日本に登録(2013年末)されている外国人は196ヵ国です。8割を中国、韓国・朝鮮、フィリピン、ブラジルが占め、残り2割のなかに192ヵ国があります。日本で生活する同国人が少ないほど、支えあうコミュニティを築くことが困難で病気の時に孤立しがちになります。

在日外国人の健康を守る、4つのポイント

1.医療通訳

日本語が片言であったために診断がつかずに7つの病院を転々として、入院できた時にはすでに歩行困難となった在日外国人患者のケースがあります。もちろん、医療従事者側は基本的に病気の人たちによくなってほしいと思っています。この両者に立ちはだかる壁として医療通訳があり、ここをクリアできれば医師は日頃接している日本人患者と同様に診療することができます。患者も自分の症状を理解し、治療方法を自ら判断し、医師・患者の両者が積極的に治療を進めることができます。
子どもやパートナーが通訳を務めることがありますが、正確な訳語を用いて的確かつありのまま伝えるためには一定の技術が必要です。またプライバシーの配慮を考慮し、近親者ではなく訓練を受けた通訳者が適しています。

2.病気の時に使える制度についての情報提供

難病や身体障害のために医療費を減免できる制度があるのにそれを知らずに受診を控えていた、健康保険制度の加入手続きが分からない、健康診断の書類が送られてきたが日本語のため健診を受けずにいるといったように、医療サービスにアクセスできずにいるケースがあります。病気になった時の対処法や、相談先を外国人自身が事前に知っていれば、すぐに解決方法にたどり着くことができます。今ある医療サービスに適切にアクセスするための手続きや情報提供などのサポートが求められています。

3.関係機関との連携

健康課題の解決には、医師の診療や服薬だけでなく、通訳の確保、行政機関での手続き、雇用者との調整、高額医療費の際の手続など、多様な調整が生じます。これらは言葉が不自由で日本の制度の情報が乏しい外国人の病人個人ではもちろんのこと、病院の職員だけでも対応困難です。外国人の支援に関わる相談窓口や病院のソーシャルワーカー、ボランティア、通訳、そしてシェアのようなNGOがそれぞれの組織の専門性を生かして多職種で連携してサポート体制をつくることで、困っている外国人、困っている病院・機関・企業の課題を解決することができます。
シェアも外国人医療相談のケースを重ねていくことで、医療機関、行政、NPO、コミュニティ等その連携の幅を広げています。また、シェアが得た課題解決の成功事例・先駆事例を他県と共有することで、外国人支援体制が全国的に整えていく力になるよう取り組んでいきたいと思います。

外国人をサポートしている機関の一例
▶MICかながわ
 (NPO:多言語での医療通訳派遣を行っていて、神奈川県内の医療機関の協定し派遣実績も多い)

▶移住労働者と連帯するネットワーク
 (NPO:移住労働者の権利を守るために活動する団体間の連絡・協力機関としてつくられたネットワーク)

▶港町診療所
 (病院:英語、スペイン語、タガログ語、タイ語などの言語に対応している神奈川県の病院)

▶高田馬場さくらクリニック
 (病院:英語、ネパール語、チベット語、ビルマ語などの言語に対応している整形科外科)

4.個人レベルでの国境を越える(一人一人が身近な国境を越えること)

行政や病院が外国人の医療体制を整えていくことはもちろん必要なことです。しかし、外国人ひとりひとりの状況を把握していくことには限界があります。その限界を同じ地域で暮らし、同じ会社で働く、私たち一人ひとりがサポートすることで乗り越えることはできないでしょうか。これは、外国人医療に限ったことではなく、孤立高齢者についても同様です。行政へのおまかせや当事者だけの課題とするのではなく、地域で暮らす様々な人々の自発的な参加で平等な医療が促進されるとシェアは考えています。

今、国と国との対立ばかりが話題になっています。しかし、社会と社会ではなく、個人同士で困っている人がいたらどうするのかということを考えると、もっと違う展開になるのではないでしょうか。政府は外国人労働者の受け入れ拡大を検討し、2020年には東京オリンピックも行われ、今後日本に訪れる外国人は増えていきます。個人レベルでの(一人一人が身近な)国境を越え、身の回りの地域で人と人のつながりを深めていくことで平等な医療に少しでも近づいて行けることを願っています。

*1技能実習生は、実質的には単純労働をする労働者であることが多いにも関わらず、実習という名目で報酬が少なく転職の自由がありません。また出身国側でブローカーに手続料を払うために高額の借金をしているケースが少なくないことから強制労働に悪用されるケースが後を絶たないとアメリカ政府の人身売買監督官から制度の改善をするようにたびたび指摘されてきました。
(認定NPO法人)シェア=国際保健協力市民の会は、健康で平和な世界を全ての人とのわかちあう(シェア)ために、1983年に結成された国際保健NGO(民間団体)です。私たちはすべての人が心身ともに健康に暮らせる社会を目指し、"いのちを守る人を育てる"保健医療支援活動を、タイ、カンボジア、東ティモール、日本で進めています。 ▶シェアとは

命を守る保健医療支援に、ご寄付をお願いします。

寄付金控除の対象となる認定NPOです。

例えば10,000円で、在日外国人への医療通訳を1回派遣できます。

言葉が通じず、感染症や重い病気で不安がいっぱいの外国人に対して通訳の派遣はとても重要です。年間約200件の依頼に対応しています。

皆さまからお預かりしたご寄付は、在日外国人の保健医療活動に使わせていただきます。またご寄付の最大20%までを、支援活動を支えるための管理運営費に使わせていただきます。

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課題を根本から解決するためには、継続した支援活動と皆さまからの息の長い支援が必要です。(海外及び日本のプロジェクト支援になります)
「いのちのリレー募金」へのご参加をお待ちしています。

小学校に手洗いステーションを2つ設置することができます。衛生面を改善し、病気を予防できます。
HIV陽性者への家庭訪問を1~2回できます。健康チェックだけでなく、家族の相談にのり精神面でもサポートします。
一つの村で乳幼児健診を1回行うことができます。子どもの成長とともに定期的に検診を行う必要があります。
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