HIV治療を継続させるために―2年間のザンビア派遣から
HIV陽性率14・3%のザンビア
アフリカ大陸の中でも南部アフリカに位置するザンビア共和国。私は、首都ルサカから400㎞離れ、南部州カロモ郡のクリニックに公衆衛生隊員として派遣されていました。活動はクリニックのHIV部門運営支援としてカルテや薬剤の管理、受診中断者のリストアップとフォローアップや地域での健康教育を行ってきました。
ザンビアのHIV感染率は14・3%と高く、依然として人々の健康を脅かす問題となっています。新規感染者数も例年上昇が続いており、治療を必要としている患者が多いという現状でしたが、2005年からのHIV治療の無料化とモバイルHIVケアサービスの普及でHIV治療にアクセスできる人の数が増加していました。私の配属先では2週間に1度のHIVケアクリニックがあり、準医師・看護師・トリートメントサポーター(HIVや結核患者のサポートするための講習を受けたボランティア)により診察・処方・患者指導が行われていました。
HIV治療が困難な背景
HIVクリニックでのサポート始めるにあたり、日本とは生活環境も文化も全てが違うザンビアで患者さんたちがどんな問題を抱えているのか、分からない事だらけ。日本で看護師をしていた時に感じていた〝患者さんを看護する時は、疾患だけではなくその人自身や、家族や社会環境を理解した上で看護すること〟を思い出し、カルテ一つひとつと向き合うことから始めました。ここから見えてきたクリニックの患者さんが抱える2つの問題を紹介します。1つ目は治療の継続についてです。HIVケアに登録され治療を始めた患者さんは時間が経過するにしたがって、ケアから脱落してしまうということが分かりました。特に抗HIV薬を内服していない患者さんは内服を始めた患者さんに比べより早期に治療から脱落してしまっているのです。2つ目は治療を中断してしまう要因についてです。家族や友人等サポートしてくれる人にHIV陽性を告知していない患者さんのほうが治療を中断しやすいのです。また、薬剤不足など施設側への期待不足や治療に対する知識の不足も要因の一つです。この現状を基に、HIV治療に関する患者教育をするようにトリートメントサポーターに働きかけ、医療スタッフとともに薬剤管理の徹底や患者フォローアップ等行いました。しかし、治療が続けられるように環境を変える努力をしても、どうにもできない事もありました。〝民間療法への信仰〟です。「祈祷師の所に行って、聖水を飲んだからHIVは治ったのよ。だから薬はもう飲まないわ」フォローアップで患者さんの家に訪問したときに言われた言葉です。スタッフにも相談し、治療に戻るように何度か説明に行きましたが、結局受け入れてもらえなかったこともありました。治療を継続させるには多くの要因が関連していることを考えさせられます。
治療サポートに求められるもの
この地域では結核やマラリアも課題となっていますが、どちらも完治したら治療が終了するという目標があります。しかし、残念ながらHIVには治療終了という目標はなく、生涯薬を飲み続け、病気と向き合わなければならなりません。〝交通手段がなくて、定期受診日に来れなかったんだ〟という患者さんの声もよく耳にしていましたが、交通インフラを含めて、この地域に住む誰もが治療にアクセスできる環境をつくるのも大切です。しかし、それと同時に患者や家族に治療に関する正しい知識を与え、治療を続けていくサポート体制を整えることも同じくらい重要なのだということを考えた2年間のザンビアでの活動でした。
シェア2010年インターン 青年海外協力隊 平成23年度1次隊 ザンビア公衆衛生隊員 移川美季
機関誌「Bon Partage」No.154(2013年11月)掲載