SHARE

(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

HOME > 基礎知識 > 公衆衛生

公衆衛生

定義

「公衆衛生」と対比されるのが「臨床・治療」です。「臨床・治療」とは、私たちが通常、病気にかかって訪れる町医者や病院における診療や治療のことを言います。病気にかかっている「個人」を医療者が診察、診断を下し、それに対しての適切な治療をおこない、病気を治すことです。これに対して、公衆衛生「Public Health」は、「人間社会の健康に関わる諸問題に集団的に対応すること」とされ、人々を集合としてとらえ、市レベル、町レベル、場合によっては国レベルで対応策を考える事を言います。「国民の健康を保持、増進させるため、公私の保健機関や地域・職域組織によって営まれる組織的な衛生活動」(広辞苑)と言えます。具体的には、日本では、母子保健、伝染病予防、生活習慣病対策、精神衛生、食品衛生、住居衛生、上下水道、屎尿塵芥処理、公害対策、労働衛生などです。



歴史

歴史的に最初の公衆衛生的活動は紀元前2000年のインダス文明の発祥の地、モヘンジョダロ遺跡の計画的な街づくりといわれています。市街地には、石に道がつくられ、市民における上下水路が計画的につくられたと言われています。その後、個々としての問題としてよりも、集団の公衆衛生問題として、多くの伝染病が文明社会を苦しめました。紀元前1000年に起こったとされる天然痘の発生は、ピラミッドのミイラによって証明されていますし、ギリシャ時代には、ヒポクラテスは、ペスト、ジフテリア、マラリアなどの流行をその症状と共に記しており、それらの対策を公衆衛生の対策としてとろうとしました。14世紀のイタリアにおけるルネッサンス期には、すでに今、保健所などで行われている公衆衛生の仕組みといえる食品衛生監視、環境衛生監視、風俗営業監視などの仕組みが出来上がったといいます。産業革命の時期である1800年頃のイギリスにおいて、大きな公衆衛生問題が出現してきました。すなわち、大工業時代の伴う大量の農民の都市への大移動です。都市にはこれらの人々を受け取る受け皿がありませんでした。住居も、上下水道も、ごみ処理、糞尿処理も圧倒的に不足であり、これらの人々の健康状態は劣悪となり、コレラや結核が 蔓延し、1840年前後の統計では、ロンドンの労働者の平均寿命は18歳と記されています。これらの衛生問題に関しては、世界で初めての公衆衛生に関する法律「Liverpool Sanitary Act」(1846),が出されました。公的機関が組織的に「健康を含めて人民の財産を守る義務が行政にある」ということを実践した最初であり、この後、次々に公衆衛生に関する法律が出されるようになりました。



日本の公衆衛生と欧米の公衆衛生

世界、特に欧米における「公衆衛生 Public Health」と日本の「公衆衛生」には、その概念に多少の違いがあるようです。日本の場合、戦前、戦中は富国強兵、兵力増強のために、結核患者をなくし、栄養指導もし、強い兵隊をつくるためにトップダウンに公衆衛生活動が行われました。すなわち、「お国のため、天皇のための公衆衛生」であったといえます。そのうえ、医者は公衆衛生はやらないで、公衆衛生は保健婦などがやることである、医者は上で公衆衛生は下であると言った概念があり、これは戦後そして、現在につながっています。公衆衛生は医学教育の中では現在でも医学部の外科や内科と同じように一つの科目として位置づけられています。また、公衆衛生において一番重要な公衆衛生政策に関しては、厚生労働省の仕事とされ、公衆衛生教育の中では重要視されていませんし、欧米では重要な病院管理や経営管理に関しても、日本の公衆衛生の中では同様に重要視されていない。「臨床・治療」を実践する医師が偉いのであって、その管理、運営は他のものに任せばよいといった考えだったのです。欧米では、概念的に公衆衛生の中の一つに「臨床・治療医学」があり、公衆衛生は、それを統括し、社会全体・国民全体を守っていく仕組みとしての立場のもとに公衆衛生教育が実施されています。



国際保健と公衆衛生

日本の病院で働いた医療者が、国際医療協力の現場で最初に戸惑うことがあります。「臨床・治療医学」を捨てなければならないと言うことです。筆者がエチオピアの飢餓被災民キャンプで感じたことです。脱水と栄養失調で死にそうになって運ばれてくる子供たちを治療するのですが、やれることは点滴をするだけです。そのような子供が次から次へと運ばれて来る。日本で行うような集中治療はできない。死にそうになってきて、そのまま死んでいくのです。限られた薬、限られた環境では、そのあるものを有効に使うためには、対象を個人としてみるのではなく、全体として考えなければならないのです。日本にいれば、保険制度のもとに、一人の患者を救うためにありとあらゆる薬剤を使うことが可能でしたが、開発途上国ではそれはしてはいけないのです。全体にあるものをどのように使うかを考えなければならないのです。500万円の金があり、これをひとりの先天性心奇形の患者を救うために使うのか、5万人の下痢症のために使うかと言うことです。国際保健を実践していくためには、「臨床・治療」の概念から、「公衆衛生・予防医学」への概念に進無必要があります。



 
新しい時代の公衆衛生

様々な新しい感染性疾患があらわれ、情報時代のめまぐるしい時代の新しい公衆衛生の定義として「継続しかつ地域の住民の健康(の不均衡)の改善のための集合的(協働的かつ組織化された)活動」が提唱されました。そして、これらの公衆衛生活動の実施のために、第一に公衆衛生活動実施のリーダー的機能を果たすべく保健システムの改善し、第二に住民全体の保健の改善のために保健セクターのみならず、関係セクター間の協力し、第三に保健医療科学だけにとらわれず社会科学を含めた様々な考え方、アプローチ法の採用し、第四に政府が公衆衛生政策重視し、第五にコミュニティの様々な人材とのパートナーシップすることが望まれます。日本の憲法25条やプライマリーヘルスケアに関してのアルマータ宣言にあるように「健康で文化的な生活ができる事」は、基本的人権であり、これらを守っていくのが公衆衛生です。


文責:国立国際医療センター国際医療協力局 仲佐保
機関誌「Bon Partage」No.118(2004年7月)掲載
寄付・募金:シェアは認定NPOです。皆様からの寄付は控除の対象となります。
  • 保健医療支援をお願いします

  • 継続した支援が必要です

  • 本が寄付になる

  • 皆で集めて寄付!