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(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 シェアは、保健医療を中心として国際協力活動を行っている民間団体(NGO)です。

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プライマリ・ヘルス・ケア

プライマリ・ヘルス・ケアとは

WHOでは健康を「完全な肉体的、精神的及び社会福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と定義しています。「・・・疾病又は病弱の存在しないことではない。」、「健康」=「病気ではない」ということとは違うようです。「病気ではない」ということの他に何があるのでしょうか。
それは身体の不調の原因として、医学的な「病名」をあげるのではなく、身体の不調を引き起こすことになった根本的な原因があることを意味しています。その原因を例としてあげるのならば、十分な食べ物、清潔な水、住居の様子、家庭の状況、地域の医療システム、など、多くの点があげられます。この原因の多様さは、どこか一つを改善するだけでは、健康の問題を解決することはできないということを示しています。健康とは、さまざまな分野(農業、教育、通信、建設・水利、社会、経済、文化、政治、人権など)と連携して問題に取り組むことによって、初めて解決可能になる問題なのです。そしてひいては、身体の健康の問題解決だけではなく、こころの健康、地域の健康、社会の健康、平和な世界へとつながります。
健康であることを基本的な人権として認め、全ての人が健康になること、そのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していくアプローチをプライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care)といいます。


定義

プライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care: 以下、PHC)は、すべての人にとって健康を、基本的な人権として認め、その達成の過程において、住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念であり、方法・アプローチでもある、と言えます。PHCは1978年、旧ソ連邦カザフ共和国の首都アルマ・アタで出された、歴史的な宣言が基礎になっています。
アルマ・アタ宣言によると、「PHCとは、実践的で、科学的に有効で、社会に受容されうる手段と技術に基づいた、欠くことのできない保健活動のことである。・・・PHCは、国家保健システムと個人、家族、地域社会とが最初に接するレベルであって、人々が生活し労働する場所になるべく近接して保健サービスを提供する、継続的な保健活動の過程の第一段階を構成する。」(高木史江・訳)
PHCには、実施上の4原則とか5原則と言われるものがあります。(1)住民のニーズに基づくこと、(2)地域資源の有効活用、(3)住民参加、(4)農業、教育、通信、建設・水利など多分野間の協調と統合、(5)適正技術の使用。((5)は(2)の中に含めることもあります)


原則と活動法則

PHCの具体的な活動項目には、以下の8つがあります。
1. 健康教育、2.食糧確保と適切な栄養、3.安全な飲み水と基本的な衛生、4.母子保健(家族計画を含む)、5.主要な感染症への予防接種、6.地方風土病への対策、7.簡単な病気や怪我の治療、8.必須医薬品の供給。
アルマ・アタ宣言以降、各国がPHCに取り組む過程で、これら8項目以外に、女性の健康(リプロダクティヴ・ヘルス)、障害者の健康、精神保健、歯科保健、麻薬対策、HIV・エイズ、交通事故対策などが、追加の重点項目として掲げられる場合も出てきました。


PHCの背景にある思想

PHCは決して単独で生まれてきた考え方ではありません。そこに至るさまざまな思想的営みや社会的実践があったのです。これは私見ですが、PHCを形成した重要な思想的・実践的な源流には、少なくとも以下の5つがあります。(1)開発論からの影響、(2)途上国での実際の経験、(3)人権思想の確立・普及、(4)障害者の自立生活運動や地域リハビリテーション(Community Based Rehabilitation 以下CBR)との相互啓発、(5)参加型教育理論の進歩。
紙幅が足りないので詳しくは触れませんが、(1)開発理論には系譜があって、故・室靖先生によると、1960年代後半から70年代にかけて影響力をもった、「もう一つの開発」(Alternative Development)や「基本的人間ニーズ」(Basic Human Neads:BHNs)など、第二世代の開発論の産物として、PHCを捕らえることが可能です。(2)1960年代から70年代初頭にかけての、キューバ、中国、タンザニア、インドなど第三世界9カ国の経験が、PHCに先行する重要な経験として生かされたのです。日本の戦後の佐久病院などでの実践も、その意味で立派なPHCの事例と言えます。(3)第二次世界大戦後の普遍的な人権思想の表明である、世界人権宣言(1948)、国連による社会権規約(A規約)、自由権規約(B規約)(いずれも1996年)などには、生命の尊重、健康を人権とみなす思想がすでに盛り込まれており、PHCの源流になったと思われます。(4)障害者自立運動やCBRが、どんなに大きな力をPHCから獲得し、また逆にPHCが障害者運動から刺激や啓発を得たかについては、ぜひ、中西正司・上野千鶴子著「当事者主権」(岩波新書)、中西由起子・久野研二著「障害者の社会開発」(明石書店)を併読ください。「目からウロコ」の本です。なお二人の中西さんはご夫婦です。(5)参加型教育については、成人識字教育理論の開発者、パウロ・フレイレ、参加型農村調査法(Participatory Rural Appraisal:PRA)のロバート・チェンバース、そして、'Helping Health Workers Learn'(保健ワーカーの学びを助けるために)の著者・ディビッド・ワーナーから、PHCの実践現場は大きな啓発を受けてきたと思います。


21世紀のPHC

PHCの理念を最も簡明・直截(ちょくせつ)に示してくれているのは、ワーナーの著書の題名ともなった、'Nothing about us without us'(私たちに関係のあることは私たちなしで決めるな)という当事者主権の考え方そのものです。あるいは、A.トフラーが1980年「第三の波」に書いた、プロシューマ(生産=消費者)の価値観と言ってもよいでしょう。21世紀はその意味で、PHCの主役となるべき、高齢者、障害者、途上国住民、さらに、世界中の難民、HIV陽性者や在日外国人やホームレスの人々など、社会的差別の対象になっている人々が、もっと元気と力を付けて、いのちと健康のために、PHCを新たな地平に引き上げてくれる時代になるのだと確信します。



シェアの取り組み

シェアは活動を行うにあたって、以下のようなプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)のアプローチを尊重しています。

住民ニーズに基づいた活動
活動を開始する際には、支援する側にとっての実施しやすさで決定するのではなく、人々を取り巻く状況を調べ、人々が求めているものは何かをいっしょに考えていく過程で、人々と共に具体的な活動を決定します。また、一度決まった活動であっても、住民のニーズと合っているかどうかを常に検証し、状況の変化などに柔軟に対応していきます。

地域資源の有効活用
シェアが活動を終了して地域に引き継いだ後、住民が継続して自分たちの健康問題に取り組んでいくためには、外部に依存したやり方ではうまくいきません。そのため、地域にある人材や知恵、自然資源などを有効に利用する方法を重視しています。

住民参加
活動の中心は、そこに住んでいる人々自身です。シェアがプロジェクトを実施する際には、活動の計画から実施、評価に至る全プロジェクト過程で、住民参加が保証されるようにしています。また、活動の主体はあくまで住民であり、シェアは人々の自主的な取り組みを側面から支援する役割を担います。

人間中心の開発
シェアは、活動の中で極力物質的な援助を避けて、トレーニングやグループ作りなどを通して、保健スタッフや地域のキーパーソンとなる人々/グループに働きかけることにより、彼ら自身が自分たちの問題として健康問題に継続して取り組んでいけるように支援しています。

多様な社会資源の協調
病気の原因は、医療だけの力で取り除けるわけではありません。途上国の健康問題は、教育や福祉、開発など様々な問題が関わっています。シェアは、途上国の現場で関わる多様な人々との協力を大切にします。


文責:本田徹

機関誌「Bon Partage」No.115(2004年1月)掲載

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