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栄養

人権としての栄養

現在、FAOの試算(2000〜2002年統計)によれば約8億5千万人を超える人々が栄養不足人口とされる。再び増大していることに国際的な注意喚起が叫ばれている。
FAO/WHO合同栄養会議(1992年)において、「栄養的で安全な食物へのアクセスは個々人の権利である」との「世界栄養宣言」が採択され、続く1996年の世界食料サミットにおいて、「飢えからの自由は全ての人にとっての基本的権利である(食料の安全保障に関するローマ宣言)」との宣言が採択された。
栄養や食物へのアクセスが権利であると明言されたことは画期的である。

栄養失調・栄養不良・低栄養

栄養素の不足も過剰も栄養問題である。両方を含めて栄養失調malnutritionといい、時には同一人物において、鉄不足とエネルギー過剰が同居している。栄養不良は栄養失調とほぼ同じであるが、不良のニュアンスから低栄養を指す場合もある。低栄養は文字通り不足をさし、特に蛋白質エネルギー不足を指すことも多い。

途上国における今日の栄養問題

現在、三大栄養問題として多くの地域で取り組まれているのが、蛋白質エネルギー欠乏症、ビタミンA欠乏症、鉄欠乏性貧血である。沃素欠乏症の多い地域もある。

  1. 蛋白質エネルギー欠乏症(PEM)
    「低栄養」の代表的な問題であり、10億人を超す乳幼児死亡の半分の原因といわれる。軽度も含めると途上国の子供の3割がそうだ。妊産婦・授乳婦にも重篤な影響を与える。悪化すると「マラスムス(消耗症)」に至る。
    飢餓時のやせ細った子供たちの症状である。食物、特に主食物の絶対量が不足しているために、エネルギーはもちろんのこと蛋白質ほか必要な微量栄養素の大半が足りない。
    「クワシオルコール」は、特に蛋白質不足がある上に感染症やカビ毒によるフリーラジカル(*1)蓄積過剰が原因である。むくみや腹水、皮膚の潰瘍、毛髪の弱化、肝臓肥大などが症状である。この2つの混合タイプもある。
    下痢を合併すると栄養素の吸収力が低下するため、数ヶ月で一気にマラスムスに至る。慢性化すると、成長、とりわけ脳の発達に取り返せない損傷を受ける。体力が落ちるため活動が鈍り、認識や運動機能の発達が障害されやすい。感染症他の病気にも罹りやすく簡単に命を落とすことになる。
    5歳未満児が罹ることが多いが、特に母乳不足の乳児や離乳後まもない1歳〜3歳児に多い。
  2. ビタミンA欠乏症(VAD)
    皮膚の乾燥、夜盲症、角膜乾燥症から失明に至る。近年、感染症や貧血予防、成長の点からも重要であることがわかってきた。
    ビタミンAの供給源は、肉やレバーなど動物性食品並びに緑黄色野菜とされるが、他にも、黄色果実、橘色イモ類、植物の葉、野草山菜、水草(海草)なども給源となる。
  3. 鉄欠乏
    鉄は赤血球中のヘモグロビンの成分として、また脳や筋肉、免疫細胞の機能維持にとって重要である。慢性的な鉄欠乏性貧血(IDA)は、倦怠感、全身の機能低下、免疫低下が起こり、乳幼児では知能発達が低下する。鉄不足の原因は、鉄摂取不足が主因であるが、寄生虫などによる血液の損失や、鉄吸収を助けるビタミンC、ヘモグロビン形成に不可欠な蛋白質や葉酸などの不足もある。


(*1)フリーラジカル:体内で連鎖的な酸化を引き起こし、さまざまな病気の原因をつくり出す要因となる物質のひとつ。

途上国における栄養転換

途上国における栄養転換
途上国には低栄養と過剰栄養の両問題が並存する。肥満、糖尿病、高脂血症が増えている。これを栄養転換とよぶ。
過剰栄養は、従来、都市部の富裕層に見られたが、近年、農村部や都市貧民に広がってきた。経済成長に伴い、農村の食生活も従来型の自給食物中心から変化し、加工食品が入り込む。都市での安価な食品は、脂肪の多い栄養面で貧弱なものが多い。
貧困者の間での肥満や糖尿病というのは不思議に思うかもしれないが、近年の研究で、出生時に低体重、あるいは幼児期に低栄養だった者が成人した後、少しの高エネルギーや高脂肪食で肥満になりやすいことが分かった。少しでもエネルギーに余剰があると脂肪として蓄えるのは生物としてのリスク回避機能である。

栄養状態の判定方法

栄養状態絵の判定方法には次の5レベルがある。
1)食料の生産流通供給量、2)食物摂取量、3)身体計測(体重、身長、皮下脂肪厚他)、4)臨床症状(夜盲症、脚気、貧血症状など)、5)生化学的検査(血液や尿検査など)
身体計測は、実施の簡便性と、総合的な栄養状態を反映することから最もよく使われる。5歳未満児のPEMの指標として、年齢別標準値に比較した体重(weight for age)、同じく身長(height for age)、身長別標準体重に比較した体重(weight for height)が用いられる。食糧供給量は個々人ではなく、リスク地域の判定に適している。
栄養改善のために食糧配給、添加食品配給、栄養教育が行われているが、持続的な農業や地域開発も重要である。

文責:女子栄養大学 教授 磯田厚子
機関誌「Bon Partage」No.126(2005年11月)掲載

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